第33話 ジュン3度目の鈴鹿8耐 入賞なるか

 7月最終週、鈴鹿8耐ウィークが始まった。

 ジュンのチームは、「RS SATO&K」といった。佐藤眞二とチーム川口の合同チームだ。といっても、チーム川口のメカのほとんどは元々RS SATOにいたメンバーである。合同チームという感覚はなかった。佐藤眞二もスポンサーとしてチーム川口に関わっているので、皆が顔なじみだった。

 エースの証しであるブルーは佐藤、イエローはハインツ、レッドはジュンとなった。予選では、佐藤が2分6秒1の好タイム。ハインツは2分6秒0のレコードタイムと同タイムをだした。ジュンも2分6秒2と、これも肉薄するタイムをだしていた。佐藤眞二は、この二人の若手を頼もしく思った。そこで、スタートはハインツ、二番手はジュン、三番手に自分が行くと決めた。体力のある二人に3回走らせることにしたのだ。

 優勝候補はY社(中嶋・野田・クラーク)KW社(ジョンソン・ヒル・水田)H社(高木。渡部・ハンス)といったファクトリーチーム、そして佐藤眞二のチームが4強と目されていた。

 11時半、スタート。予選2位からスタートしたハインツは、勢いよく飛び出し、トップにでた。野田。高木。ジョンソンと続いている。1周目からスプリントレースの様相だ。

 12時半、ジュンに交代。ピットストップの間に2位に落ちた。トップは中嶋である。

 1時半、佐藤眞二に交代。2位のままバトンタッチ。

 2時半、ハインツに交代。トップの野田に肉薄するも、無理はしなかった。野田の走りを見ているようだった。

 3時半、ジュンに交代。ジュンもトップ中嶋の走りを観察して走った。

 4時半、佐藤眞二に交代。眞二もクラークに食いついていた。

 5時半、ハインツに交代。いよいよ野田との勝負だ。徐々に間を詰め、スプーンカーブで勝負をかけた。野田のスリップストリームにつき、立ち上がりでインをさした。野田がアウトに膨らみがちだったからだ。そのまま130Rで野田の前に出た。そしてトップでピットにもどってきた。

 6時半、ジュンに交代。だが、タイヤを交換している間に、Y社の中嶋が先行して出ていった。なんとタイヤ交換なしで再スタートしたのだ。ジュンは5秒ほど遅れて出ていった。早めのナイトレースになった。5秒詰めるのは至難の業だ。ただ、中嶋のタイヤがもてばの話だ。

 7時、ジュンのサインボードには、「マイナス3」と出ている。2秒縮めた。だが、このペースでは追いつけない。ジュンは残った体力と集中力を最大限にふりしぼった。

 7時29分、あと1分でチェッカー。ファイナルラップだ。サインボードには「マイナス1」と出ている。暗闇でよくわからないが、ライトの先には中嶋がいる。最後まで諦めなければ何かが起きるとジュンは信じていた。そして、とうとうヘアピンで中嶋のマシンを追いつめた。スリップストリームでスプーンカーブに飛び込んだ。立ち上がりで中嶋のマシンと並んだ。サイドバイサイドだ。130Rでインについたジュンはアウトで中嶋がぐらつくのがわかった。そのままリードしてシケインに入り、メインストレートに出た。スタンドは大歓声に包まれていた。ジュンがトップで駆け抜ける。チームスタッフ全員が涙ぐんで喜んでいた。監督の剛士も岡崎も木村もジュリアも、そしてハインツや佐藤眞二までもが、ガッツポーズをしながら涙を流している。佐藤眞二にとっても10年ぶりの優勝だった。

 その夜の金ちゃんラーメンでの祝勝会は、今までになかった盛り上がりだったことは言うまでもない。そこで、佐藤眞二からある報告があった。

「H社に報告したら、今回の優勝のご褒美にMotoGPのワイルドカード参戦のチャンスをくれるそうだ。次回のSUGOラウンドで年間ランク上位二人をMotoGPに出させてくれるとのこと。二人ともチャンスがあるぞ」

 現在、H社のランキングでは、ハインツ・高木・ジュンの順番だ。だが、差はほとんどない。MotoGPの会場であるSUGOで勝てばいいのだ。ジュンは心が躍った。

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