第16話 ヨーロッパ転戦 ハインツの進撃
7月初め、KT社の地元ザルツブルグで開催された。KT社の面々は、モナコで惨敗だったので、気合いが入っている。まさに物量作戦だ。パドックでの食事も豪華だった。しかし、ジュンは気がのらなかった。日本に連絡をして、ヨーロッパに招待したのだが、父親がケガをして入院したというのである。レースチームは解散したのだが、KT社の代理店になっていて、営業と修理が大変だったらしい。出先からバイクで帰ってくる時に、こけたとのことだ。全治一ヶ月である。姉の景子の声が沈んでいたのが気になった。
予選は、KT社のマシンが1列目を占めた。佐伯・ハインツ・シュワンツマンの順である。ジュンは10番手だった。
決勝もKT社のマシンでトップを争い、佐伯・シュワンツマン・ハインツの順での表彰台KT社独占だった。ハインツは、高速の伸びがいまひとつだったとぼやいていた。ジュンは12位に落ちた。ジュリアが声をかけられないぐらい落ち込んでいた。
ポイントリーダーは、ハインツが139Pでリード。鈴木は131P、佐伯が110Pで続いている。ジュンは82Pで、チャンピオン争いから脱落したと思われた。
7月半ば、ジュンはドイツのホッケンハイムにいた。車で3時間の距離だ。地元みたいなコースといってもいいくらいだ。ハインツにとっては、走り慣れたコースなので絶好調だった。観客の声援も後押しをし、ポールトゥウィンを果たした。ハインツが、がんばったのはもうひとつ理由があった。ジュンの姉の景子が応援に来たからである。本来はジュンのために来たのだが、ハインツは景子が来てくれたことでハイテンションになっていた。優勝後のパーティーでも景子とべったりだった。ジュンも久しぶりに3位に入った。ハインツのセッティングがジュンにも功を奏したようだ。2位にはダークホースのH社のバンデンが入った。地元ドイツ出身のライダーだ。
景子の話では、父親のケガは快方に向かっているということだった。そして、朗報として昨年のチームのメカである木村くんがKT社を退社して、父親の手伝いをしてくれているということだった。どうやらKT社の上司とうまくいかなかったらしい。彼のおかげでKT社の修理が増え、店は順調だということだ。だから景子もヨーロッパに来ることができたのである。ジュンも姉の前で張り切り、3位入賞を果たしたのだ。佐伯は5位、鈴木とシュワンツマンはリタイアだった。
ポイントは、ハインツが164Pでダントツのトップ。鈴木は131Pのまま。佐伯が121Pで迫ってきた。ジュンは99Pでランキング5位となった。
7月末、チェコのブルノサーキット。ここもザルツブルグから車で2時間の距離である。KT社の準ホームサーキットだ。ここでもハインツは速く、予選2位から優勝を果たした。このレースまで姉の景子がいたので、張り切ったのだろう。2位にはジュンが入った。ジュンも姉の喜ぶ顔が見たかったのである。もっとも、一番喜んだのは監督のジムである。裸にならんばかりの喜びようだった。スペインラウンド以来のチームワンツーだったからである。それも準ホームコース。大勢のKT社ファンの前での快挙。喜ばないわけにはいかない。
ポイントは、ハインツが189Pと伸ばし、鈴木は6位入賞で141P。佐伯は4位で134P。ジュンは119Pと佐伯に迫り、ランキング4位に上がった。
景子はおみやげをたくさん持って、ミュンヘンから日本への直行便で帰った。空港でハインツからほっぺにキスをされ、何かを言われていた。後でジュンが姉に聞くと
「 You are a goddess of victory . 」
(あなたは勝利の女神だ)
と言われたとのこと。どこかで聞いたセリフだと思った。ジュンの勝利の女神も近くで微笑んでいた。
8月半ば、オランダのアッセンにいた。8月に入るとオランダは秋である。観客の中には皮ジャンを着ている人もいる。今年の8月は特に寒いということだった。ここアッセンは埋め立て地にできたということで、高低差がほとんどない。そのかわり、コーナーにバンク角がついている。まさに高速コースだ。タイヤ選択に迷ったが、チームはミディアムを選択した。ソフトタイヤでは後半たれると考えたからである。この作戦がうまくいき、ソフトタイヤのマシンは後半失速した。優勝はハインツ、2位には地元のヤン。やはりミディアムタイヤを履いていた。ジュンは3位入賞。3戦連続表彰台となった。佐伯と鈴木は接触して、2台ともコースアウトしていた。追い上げで焦ったみたいだった。
ポイントはハインツが214Pで独走。鈴木は141Pのまま。佐伯も134Pで止まっている。ジュンは135Pで佐伯を抜き、ランキング3位となった。またまた佐伯の視線が厳しくなった。ジュリアだけが、はしゃいでいた。
次戦は、ベルギー スパ・フランコルシャン。丘陵にあるのでスパウェザーと言われる天候の急変が多いサーキットである。また7004mと最長のサーキットでもある。高低差も大きく、ジュンにとっては未知の世界に思えていた。
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