第13話 試練のフランス ル・マン

 スペインから2週間後、フランスのル・マン、ブガッティサーキットにやってきた。パリから1時間ほどで来ることができた。あの4輪の24時間レースが行われるところである。ただし、公道を使わないパーマネントコースだけなので、距離は、4185mと比較的短い。ここのサーキットは、ストレートが短く、高速サーキットを得意としているKT社のマシンは苦手としていた。ただ今年は様子が違っている。コーナーを得意とするハインツがいるからである。

 予選のトップは、H社の鈴木だったが、ハインツは2位につけていた。ジュンはハインツのスリップストリームにつけず、予選7位の3列目になった。前回のジュンの初優勝以来、ハインツはジュンと口をきかなくなっていた。自分がチームのエースなのに、まだ優勝がない。3戦連続2位なのである。プライドが許さなかった。

 ハインツは静かに燃えていた。ハインツはモーターホームに泊まることなく、ル・マンのホテルに一人で泊まっている。ジュンは、ハインツの気迫を感じ、近寄りがたかった。

 決勝、前半は混戦だった。大きなアクシデントは起きなかったが、中低速コーナーが多く、マシンを倒してばかりいる印象を受けた。中盤は10台のトップ集団を形成していた。ジュンは集団の後方に位置している。ハインツは3位を走っている。

 後半、トップ集団は8台に減っていた。ジュンは変わらず集団の最後尾を走っている。ファイナルラップ、バックストレートエンドでハインツがトップにたち、そのままフィニッシュラインを越えた。ジュンは、最後の立ち上がりで2台抜き6位となった。佐伯は5位。シュワンツマンは8位だった。

 その日は、ハインツデーだった。はじけるほどの喜びを表していた。ハインツはポイントを85Pとして、2位の鈴木に8Pの差をつけた。ご機嫌で、ジュンにも気さくに声をかけてくれるようになった。


 次戦は、イタリア ムジェロ。KT社得意の高速コースだ。ジュンは、静かに燃えていた。

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