第9話父親の思い出

4年前の、4月23日、僕の父親は逝った。まだ、68歳だった。

病死ではなく事故死なので、悲しみは突然現れた。

だが、あの頃はコロナ非常事態宣言が発出されており、名古屋から九州へ帰れず、父親の葬式にも出席出来なかった。

死の知らせを聞いた僕は、余りに突然過ぎて冷静だった。

しかし、二日目に色んな事を思い出し、涙をボロボロと流し、1人部屋で酒を飲んだ。

弔い酒である。

まぁ、思い出せば父親は凄いヤツだった。

暴力を母、子供に振り神経質な男だった。

酒乱とはこの男の事だろうか?と思った。

だが、父親は凄かった。

僕が連れて行く、はしご酒はとても嬉しいらしく、また、名古屋に初孫を見に来たときは料亭に連れて行った。

この事は晩年、ずっといい思い出として語り、その年の10月、兄弟でお金を出し合い、温泉旅行をするつもりだったが、4月にあっちへ逝ってしまった。

どんなずっこけたヤツでも、やっぱり親なんだなと思った。

遊びは全くしない人。働きながら農家をして、農家が落ち着くと野菜作り。

パチンコなどのギャンブルは絶対にしない。また、タバコは40歳で辞めた。

趣味は、仕事道具の手入れや魚釣り。

魚釣りと言っても、サビキを使った五目釣り。

68歳は早すぎる。

今、母が丁度68歳。たまに、ケンカをするが母親だけは父親の分まで長生きしてもらいたいので、物心両面でサポートしている。

今度、県人会がホテルで行われる。

総会と称した、飲み会である。

母は参加する気満々だ。

その前に、土曜日知り合いの好きなバンドのライブがある。

そこに母を連れて行く。

母はピアノを弾く、元お嬢様。

元お嬢様が農家をしながら介護福祉士として、未だに働いている。だから、音楽が好きで懐かしい曲を演奏するらしいので、母親をこれまた仕事場の同僚とボーカルのモナリザを紹介しようと思っている。

モナリザは、父親の香典を包んでくれた、親友である。

同僚には、僕が羽弦トリスであることをカミングアウトした。

頼むから、男子高校生同士の恋愛小説を読んでいない事を願うばかりである。

父親は逝った。しかし、残された僕たちは父親の分まで生きなくてはいけない。

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