全身チーズ人間のプロポーズ

 押尾谷崎おしおたにざき九十九右衛門つくもえもんを尻子玉の要領でメルティランス牛頭三郎ごずさぶろうの体内から引きずり出したのは言わずと知れた我慢強いアップルパイ子ちゃんだった。


 苦労に苦労を重ねて念願の夢を叶えたばかりだった押尾谷崎九十九右衛門は当然のごとく怒り心頭を顕に我慢強いアップルパイ子ちゃん向けて全身チーズ人間らしく全力でガッデムをぶちかました。


 このガッデムが思いのほか我慢強いアップルパイ子ちゃんの弱点らしき弱点を貫き散らしたものだから身体のあらゆる部位が(腕が足が頭がボディが耳が唇がオトガイが脳が心臓が)バラバラに引き裂かれてしまった。

 こうして我慢強いアップルパイ子ちゃんはアップル・アンド・パイからアップル・オア・パイに分解されたのだが我慢強いアップルパイ子ちゃんは我慢強いアップルパイらしく死ぬのを我慢した。


 我慢されることが大嫌いな押尾谷崎九十九右衛門は我慢されたことによって余計に怒り心頭をあらわにして我慢強いアップルパイ子ちゃんの身体のあらゆる部位を(腕を足を頭をボディを耳を唇をオトガイを脳を心臓を)世界中あちらこちらに飛び散るよう全力で放り投げた。


 ぽいぽいぽいぽい放り投げて最後に残ったのが右腕だった。

 これに至ってはいっそのこと踏み潰してしまえと思い利き足を高く振り上げた押尾谷崎九十九右衛門だったが遂にその時になってようやく我慢強いアップルパイ子ちゃんの右腕の先の手首の先の手のひらの先の5本の指の中に赤くて細長い小箱が握られていることに気がついた。


「何だねこれは」と手指から小箱をもぎとった押尾谷崎九十九右衛門は全身チーズ人間らしく華麗に小箱をオープンしてみせた。するとそこにはキラキラ輝く銀縁の素敵メガネが収められていた。


「何だねこれは」と同じ疑問を繰り返しながら押尾谷崎九十九右衛門が下を見やると我慢強いアップルパイ子ちゃんの右腕は指先にアップルソースをつけて地面にメッセージを刻み終えたところだった。


「お誕生日から333日経過おめでとう」


 これには流石の押尾谷崎九十九右衛門も衝撃を隠しきれなかった。誕生日333日経過を祝われたことなど長い全身チーズ人間人生の中でも初めての経験だったのだ。


 早い話が恋に落ちた。


 急いで路上のタクシーに全身タックルぶちかまして乗り込むと京都方面へ放り投げられた我慢強いアップルパイ子ちゃんの耳元へ赴き「愛している」「貴方のような素晴らしく我慢強いアップルパイは初めてだ」「僕と結婚してほしい」などと白々しい愛の台詞を宣った。


 そうして急いで路上の旅客機に全身タックルぶちかまして乗り込むとゴビ砂漠へ飛ばされた我慢強いアップルパイ子ちゃんのオトガイのもとへ駆けつけ彼女の美しく尖ったアゴ先がこくこくと頷いているのを見届けて歓喜した。


 それから急いで路上の潜水艦に全身タックルぶちかまして乗り込み海溝深く沈んだ我慢強いアップルパイ子ちゃんのボディをギュッと抱きしめた。


 さらに急いで路上のスペースシャトルに全身タックルぶちかまして乗り込むと大気圏すれすれに浮かんだ唇に熱いキッスを捧げた。


 仕上げに路上のメルティランス牛頭三郎に全身タックルぶちかまして乗り込むと貰ったばかりの銀縁眼鏡をグニャグニャにひん曲げてギラギラ輝く銀のエンゲージリングへと変形させた。


 目指すは我慢強いアップルパイ子ちゃんの左手が沈むヴェスヴィオ火山の火口。

 世界中の人々が溶岩でドロドロになったアップルチーズフォンデュを溢れんばかりにガッデムされて阿鼻叫喚する日は近い。

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