第1話 出会い①

ピリピリピリピリピリピリ、、、


1人しかいない1LDKの部屋に鳴り響くアラーム音

俺はうすら目を開けて枕元の携帯電話を手に取ると、スヌーズ機能のボタンを押し、また枕元に投げ捨てた。

「6時か、、、」

ぼそっとつぶやいてまた目を閉じる。意識が落ちそうになったその時また携帯電話が鳴り響く。毎日のことだが、こればっかりは慣れない、、、朝が弱い。


15分後、もう一度アラームが鳴り響き、再度携帯を手に取ると今度はアラーム停止ボタンを押し、ニュースアプリを開く。新聞を読まなくなってからかなり経つが今の世の中携帯一つでほぼ片がつく。便利なのか、堕落なのか、はたして、、、


何気なく毎日同じように行なっている行動も今日は何故だか違っていた。ニュースアプリに出てくる一つの広告に触れてしまったためだ。


その広告とは、、、まあ所謂風俗サイトへのリンクだった。普段なら広告前に戻るのだが何故だか今日に限って手が止まり、画面に出ている女性に目が釘付けになった。


風俗サイトにありがちな目元を隠したその顔立ちは、ある程度の修正がされているとはいえ鼻筋、口元ともにとても美しく、首筋から少し開いた胸元は釘付けにするほど魅力的で一目で自分の全てを奪っていった。


「素敵な人だなあ、、、」

ここが自分の家で誰も居なくてよかったと思えるような独り言が思わず出てしまうくらいの綺麗さで、ほんの少しの時間我を忘れて画面に見惚れていた。

 

そして好奇心に釣られてサイトのボタンをクリックしたのは言うまでもない。ワンクリック詐欺に捕まってもおかしく無いような不用心さだ。


サイトを開いて出てきたお店の名前は

「 campany」

サイト内を見ていくとコンセプトがあるお店のようで、コンパニオンの女性がOLの格好をしていた。お店自体はまだオープンして間もないのか、コンパニオンの数はそれほど多くなく、すぐに先程の女性を見つけることができた。


名前は「ナミ」というそうだ。もちろん本名などではなく、いわゆる源氏名というものなのだが名前なんかどうでも良くなるような感覚に陥っていた。

サイト写真だからだろうか、広告写真よりも鮮明で血管が薄く浮き出るような白い肌は先程よりも一層脳裏に焼き付くこととなり、彼女のために作られたページを開いていた。

パネルと呼ばれる数枚の写真はどれも鼻元から上はなく、目元は映っていなかった。

お店からのコメントには「誰からも愛されるOLさん」とあった愛嬌があるのだろうか?どちらかというと写真からはクールなイメージが感じられたのだが、実際はどうなんだろう、、、


こうなると、基本男はもう駄目である。ここまで心奪われる女性に会ってみたいと思うのは間違いでは無いと思う。たぶん、、、


自分は風俗へ行ったことがないわけでは無い。ある事がきっかけで彼女を作る事をしてこなかった為、時々お世話になっていた。悲しいけれども男の性である。


ただ、こうして衝動的な行動に出るときは、経験者ならわかるだろう。いわゆる「パネマジ」というのに捕まり、実際は想像した人物とは違う女性と会うことになる。そういう経験も何度としてきた。しかし、何度失敗しても今回は大丈夫だとお店に連絡をしてしまうのである。


仕事は心配する事ない、時間もある。平日だけど大丈夫だな。


そう思った自分は、お店のHPから予約画面へ行き「ナミ」の予約を取ることにした。

平日のど真ん中、水曜日である。ナミの出勤は12時からになっていたがまだ当日でも大丈夫なようだ。

最短時間は60分と出てたが、この素敵な女性が現れて緊張しないはずがない。そう思い倍の120分と、まだ会ったこともない女性に最大の期待を込めて予約した。


仮予約になりましたと、お店から登録してあったメールアドレスにメッセージが来たのを確認して携帯を布団に投げ捨てた。


天井を見上げていたら、携帯メールが着信した音が鳴った。見てみると、先程のナミから相互フォローになりましたとのメールだった。予約をした時に女性をフォローしたことになったので、相手からもフォローし返しましたという内容だった。


相互フォローの状態になると使える機能が増える。それは簡単なメッセージのやり取りができるという事。もちろんお店の監視は入るので個人的なやり取りはできない。が、簡単な挨拶やコミュニケーションがとれるので使っている人は多いと思う。


ただ、自分は今まで相互フォローになっていてもメッセージのやりとりをすることはなかった。

しかし、今回はそのメッセージをはじめて送ってみた。内容は簡単なものだ。


「ナミさん、はじめまして。パネル写真に一目惚れしてしまいそのまま予約させてもらいました。はじめてで120分と時間長いですが、よろしくお願いします」

うん、キモくないな。


そう思っていたら5分もしないうちに返信が、

「〇〇さん、はじめまして。ナミです。今日のご予約ありがとうございます。お会いできるの楽しみにしていますね。」

簡単な挨拶だが、とても丁寧な感じで返ってきた。

もう少し砕けた感じで返ってくると思ったので、少し驚いた。そして期待感も上がったのを覚えている。


予定時間まであと4時間。もう3時間も過ぎたのかと思いながら身支度と軽い朝食を済ませ家を出る準備をした。

10時になり、知らない番号からの着信。ナミが在籍するお店からだった。

内容は予約確認が取れた事、指定のホテルへ行き部屋に入ったら部屋番号を伝えてくれという内容だった。もちろん金額も伝えられた。

利用したお店は店舗を持たない形態のデリバリー方式のお店だった。


一通り準備を済ませて、指定された場所まで車を走らせる。遅れるのが嫌だったので近くの場所には30分前に到着した。


ホテル近くの駐車場に到着して携帯を見つつ時間を潰していた時、お店から再度の連絡があった。

「ナミさんが体調不良で出られなくなりました。代わりの子もいますがいかがしますか?」

一瞬、え?となり、会えないの?まじで?と、、、


元々ナミに会いにきていたので他の子がどんな子か知らないし、会うつもりもなかった自分は

「わかりました、キャンセルで」と店に伝え電話を切った。


携帯を握りながら車の中で目を閉じ、心の中で

(そっか、会えなかったか、、、縁なかったな。)

とがっかりし、今日どうしようかな?と考えていた。


10分ほどだろうか、何もせず握っていた携帯がメールの着信を知らせてきた。ナミからのメッセージ着信だった。

「〇〇さん、今日はせっかく予約をしていただいたのにごめんなさい。食あたりを起こしてしまったようで、電車を途中で降りてしまいました。本当に申し訳ありません。次回ご縁があればよろしくお願いします。」


こんなメッセージが送られてくるとは思っていなかった。諦めようかなと思っていたが、やはり後日でも会ってみたいと朝よりも強く思ってしまった。そして、

「連絡ありがとうございます。お店からは体調不良だと聞きました。ゆっくりお休みください。また機会があれば予約しますね」

と返信を返していた。


その後、ナミからメッセージはなかった。


自分の中での勝手なイメージとお預けを食らったことから既にこの時から泥沼に片足を突っ込んでいたんだと思う。嫌な記憶を思い出すほどの泥沼に、、、




時間はお昼手前。

お腹が空きだしたので、何か食べようと車を走らせて帰路に着いた。

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