第22話

「いらっしゃいま……おや、ジェイクじゃないか」


 カウンターにいた男性がジェイクさんを見て驚く。

 ジェイクさんと男性は知り合いのようだ。


「よう。ひさしぶり」


 ジェイクさんはそう言うとニヤリと口の端を上げて笑い片手をあげて応える。


「ん? ジェイク、おまえいつの間に子持ちに?」

「……オレの子じゃないが、可愛いだろう?」

「なんだおまえの子じゃないのか。早く身を固めて母親を安心させてやれよ。お前の女っ気のなさをかなり心配してるぞ。にしても、かわいい子だな」

「ソレお前の母親経由の情報だろう。母親の話はまた今度な。今日はお願いがあって来たんだよ。ほら自己紹介」


 仲良さそうなやり取りをぽけっと眺めていたら、ジェイクさんに肩をツンツンされる。

 自己紹介……


「凪(なぎ)といいます。私の横に居る白い犬はマシロといいます。眷属済みのワンちゃんです。宜しくお願いします」


 些か早口でつらつらと語り終え、ペコリと礼儀正しくお辞儀をする。


「おー、しっかりしてるな。私はキールと呼んでくれ。ジェイクと幼馴染でね。にしても、ナギちゃんの眷属は犬……で合ってるのか? そんな有り触れた種じゃないような……」

「犬……です」


 細かく説明するならフェンリルという狼種であるが、大きな括りでは犬だって遡った先の祖はハイイロオオカミが有力説だと言われていることだし、問題ないだろうと思うことにする。

 この世界にハイイロオオカミが居るかは謎だけど。


《ハイイロオオカミは存在していませんが、似たような種はいます。犬の祖は――》


(泉くん、詳細は大丈夫! 似たような種がいるというだけで!)


 突然脳内に泉くんの声が響き説明を始めたのでストップをかける。

 脳内会話に思考を取られて目の前の対応がぐだぐだになってはいけないし。

 ジェイクさんの紹介でお世話になれそうだというのに失礼があってはいけない。


《承知しました。もしお知りになりたい場合はいつでもどうぞ》


(うん。気になったら言うね)


 泉くんとのやり取りを済ませ、目の前に意識を戻すと、キールさんはマシロをジッと見つめていた。

 マシロもその視線を静かに受けて見つめ返している。

 しばし一人と一匹が無言で見つめ合う。


 ――キールさんの視線に何かが暴かれて丸裸にされるような気持ちにでもなったのか、マシロが気まずそうにスッと視線を外した。


「犬でも狼でも眷属化してるなら問題ないか。それに、ジェイクのお願いって宿に滞在させて貰えないか、だろう? もちろんいいよ。この子の付き添いとか親とかこの子以外の者はいる?」


「あー……ひとりだ」


 ジェイクが連れてきた時点で何となく訳ありかなとは思っていたキール。

 なるほど、こんなに幼い子がひとりで……訳ありだなと認識する。


「そうか。ジェイクはこれから仕事に戻るのか?」

「ああ、このまま戻る。夕方にまた来るよ」

「了解、詳しいことは後でしっかりと説明するように」

「もちろん。ナギ、夕方に来るから、またあとでな」


「はい、またあとで」


 ジェイクさんいなくなるのちょっと不安。

 幼い子扱いを受けていたからか精神まで幼い子のようになった気がする。


(成人済みで一人暮らししてたんだから、ひとりになるくらい余裕。今まで住んでた世界とは違う世界にいるってだけよ)


 ジェイクさんはマシロの頭を一撫でして手を振り去っていった。


「さて、ナギちゃんの部屋に案内するよ。うちは眷属なら一緒の部屋で過ごせるからワンちゃんも連れてっていいからね」

「はい、ありがとうございます。マシロよかったね」

「ワフ」


 キールさんはにっこり笑って部屋まで案内してくれた。

 キールさんから発せられたワンちゃんという言葉に何処となく引っかかりはあるが、気にしたらダメだとスルーする。


 案内された部屋は八畳くらいの広くてゆったりした部屋だった。

 木の木目の美しい家具で整えられた部屋はリラックス出来そうでホッとする。

 この世界で始めてちゃんとした文化的なものを感じて嬉しい。

 なんせ洞窟暮らしだったしね。


「小腹空いてる? 何か甘いもの持ってきてあげるよ」

 と言ってキールさんは部屋を出ていった。


 甘いもの!

 キールさんいい人!

 そういえば、初の異世界スイーツ!


 甘いものに釣られて即いい人認定する凪であった。

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古代種ドラゴンになったら、異世界で犬を飼う事になりました。 いぶき @iBuki_0520

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