第12話

 ただいま、両翼をタイミングよく合わせ空中で体のバランスを取りつつ飛行中。

 二カ月と少しドラゴンで生活をしていたけれど、人化したままの事の方が多かった事もあり、あまり飛ぶ機会がなかった。

 ましてや長く飛行した事は今回が初である。

 その為、ゆっくりしたスピードでまったりと飛んでいるので、魔窟の森を未だに抜け出せていない。


 私の首筋より少し下、人体でいうと肩甲骨付近にマシロが伏せた状態で乗っている。

 森の木々に接触しないように少し上空を飛んではいるが、そこまで高度は上げていない。

 飛行中の風の抵抗でマシロが落ちちゃうんじゃないかと心配したけど、それは杞憂に終わった。

 神狼族であるマシロは魔法も使えるようで、自分で結界を器用に張って風の抵抗を無くしていた。


 飛び上がる直前に私が居た周囲の地面の草木には物凄い風圧が掛かったから、上空ってもっと風の抵抗が大きそうだし心配していたのだった。


 そういえば、飛び立った後の地面はミステリーサークルのようだったな。

 前世で宇宙船が飛び立った痕のように言われているものもあったけど、それと似たものがこの世界での私の痕跡だと思うとちょっと面白い。


 ふと気になったけど宇宙人ってこの世界の概念にあるのかな。

 そもそも宇宙の存在は認識されてるのかな。


(そこのところどうなの泉くん)


 毛玉モドキに全く説明ナシでこの世界に落とされたから、謎に思った事は全て泉くん頼りである。


 飛行中は手持ち無沙汰だ。

 思念で会話できる泉くんなら風の音に遮られる事なく互いに会話できる気がする。

 ドライブ中に助手席にいる誰かと雑談する感覚である。


 泉くんが言うには、宇宙人は存在しないし概念もないとのこと。

 元の世界にその概念があったのは、科学の力で発展したから。

 元の世界は科学の力で発展したが、こちらの世界は魔力が主体である。

 魔力とは体内から勝手に湧き上がってくるものではなく、魔素と呼ばれる空気中に漂う見えない何かを体内に取り込むことで魔力として変換されるらしい。

 空気中の魔素は呼吸する生物全てに蓄積される。

 その生物は魔力に満たされた状態なので、魔素を取り込んで魔力に変換するよりも直接魔力が回復する。

 個々に蓄積出来る限界量が決まっているので、それなりに量を食べないと微々たる量しか回復しないとのこと。

 エンシェントドラゴンクラスが魔力を枯渇するまで使用して、魔力に満たされた生物を食す事で回復をするには、とんでもない量になるから無理があるらしい。

 そんな事をすればそこの生態系が崩れるのは勿論だし、国が飢饉になるくらいだそうで。

 おススメはしませんって言われたけど、する気はありませんっ。

 ドラゴンにはスキルで魔力変換と自動回復が付いているらしいので、世界を滅ぼす程の魔法でも使用しない限り枯渇はしないとの事だから、問題ないと思う。

 毛玉モドキが私の仮暮らしの約束を反故にしない限りはそんな魔法を使うつもりはない。

 もし反故にした時は・・・である。



 ♢♦♢


 ドラゴンの巨躯を空に浮かせるほどの浮力を作るには、巨躯に対する翼の大きさから考えると、羽虫たちの翅のようにかなり高速で動かさないと無理があるのでは? と私の体と翼の大きさの構造上でそう考えていた。

 けれどそこは何でもありのゆるふわファンタジー世界なのだろう。

 バッサバッサと数回ほど両翼を動かするだけでこの大きな身体も簡単に浮いた。周囲の草木はどえらい事になってたけど。

 軽くばさりばさりと交互に翼を動かし、あとは風に乗るような感じでバランスを取るだけで普通に飛べているのだった。

 まあ、もしかしたらドラゴンだから何かの力が働いてるのかもしれないけど、私の中でこの世界はゆるふわファンタジー認定したので、泉くんに訊いて疑問を解消したいほどのものでもない。


 泉くんおススメの街へと向かう移動中。

 私が飛んで通過していく森の中では魔物の大移動が始まっていた。

 空を飛べる魔物も私目がけて集まって来ているらしい。

 この世界に落とされた直後にやらされたあの面倒なのさせられるのはイヤなので、泉くんに対処法を訊いた。


 ≪大変愛されているようで何よりです。エンシェントドラゴンは世界の頂点。魔物は強い者に魅かれる習性がありますから、マスターの眷属になりたいのでしょう≫


 本当に? 丁重に遠慮させて頂きます。見た目が怖いのは無理。


(魔物たちに私が感知されない魔法とかある? 気配を消す的な?)


 ≪気配を消す『気配遮断』と音を消す『消音』がございます。両方とも作成可能です。≫


(作成? あ、そうでった。古代竜ってスキル創作出来るんだった! 了解!)


「・・・・・・・・」


(泉くん、スキル創作ってどうやるの?)


 ≪スキル創作ですので、マスターが作る事が出来ます。この世界に存在する『気配遮断』と『消音』の性能そのままをイメージされて作成する事も可能ですし、マスターのオリジナルでこの二つのスキルに似た新しいスキルを作成する事も可能です。≫


(そうなのね! すごい便利! じゃーオリジナルで作ってしまおうかな!)


 ≪ですが、マスターはこの二つのスキルを既に修得されています。≫


(えっ? あ・・・転生特典100倍だった。レベルカンストしてるし、スキルも色々持ってた気がする)

 多すぎて確認してないけど。


「じゃあ、さっさと使っちゃおう」

 泉くんとのやり取りの間にも眷属になりたい魔物たちが距離を詰めてきている。


「『気配遮断』と『消音』発動!」


 私を目がけ一直線だった魔物達がぴたりと動きを止めた。

 匂いを探すように頭を上下左右に移動させている。


(すごい便利! あれ、でも視覚では私が映ってると思うんだけど、気付かれてないのはなんでだろう。魔物って嗅覚と聴覚と気配だよりなの?)


 私の素朴な疑問に泉くんは「気配遮断を使用すると目の前にその姿を視認していても、ソレと認識しなくなってしまう効果があるのです。」と教えてくれた。


(ほほー、スキル名だけでは分からない能力だねぇ。泉くん何でも知ってて助かるよ! ありがとう)


 ≪どういたしましてマスター。知識の泉ですから当然です。≫


(頼りにしてるよぉ! 泉くん)


 泉くんが居なかったら、露頭に迷ってパニックになって、その後、毛玉モドキに対する怒りから、この世界を色々と破壊してた気がしないでもないもの。


 魔物達を気にする必要がなくなったので、空から見る景色を楽しみながら街を目指そう。

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