第10話

 その健気さにキュンキュンとしてしまい、そこまで望まれたのであればと名付けしようと思ったのだが、実際名付けようと考え始めて数分経過――――

 正直、コレだ! という名前が思いつかなくて困っている。


 私の目の前にお行儀よくお座りしてキュルンとした瞳でマテしてる姿はどうみても狼っていうよりワンコ。

 一緒に暮らすうちに情も湧いてきていたところに健気さもプラスされちゃって、もうそのキリッとした顔立ちすら愛くるしく可愛いく見えてしまう。

 そのイメージが先行しているせいか、狼でキリッとした顔立ちに似合う名前というより、フワっとした柔らかい名前を付けたい。


 取り合えず、一番大事な所の確認から――――


「えーっと、男の子なのかな、女の子なのかな?」

 デレデレふにゃふにゃのだらしない顔になっているのを自覚しつつ、言葉なんて多分通じてないだろうワンコ(狼)に問いかけた。


「ガウ!」と返事をするように一声吠えるワンコ。

「なるほどぉ、女の子ね?」

 まるでワンコ(狼)と話が通じたように返答すると「ガウガウッ!!」と否定するように強めに吠えられた。

 心なしかワンコ(狼)の目が冷たい気がする。


「もしかして男の子なのかな……? 男の子だとさ、そこらにある木に片足あげてマーキングの為にチーッとかけちゃわない?」


「!?」


 目を剥くとはこれかというくらいワンコ(狼)の目が大きく見開かれた。


「ガウガウガウッ!」

 すぐに抗議するように吠えられるが、何言ってるかちっともわかりません。


「ああ、はいはい、ごめんごめん」

 とりあえず分かってる風に宥めてみた。

「ク、クゥ~ン……」

 情けない声でワンコ(狼)が鳴く。

「拗ねちゃったのぉ? かぁわぃぃねぇ」

「ガ、ガウ……」

 モフモフした耳がへにょっと垂れた。

 上目遣いで見上げる瞳も弱った感じでタレ目になってる気が……

 な、何これ、何かキュンキュンする!!

 これが世に言うペットセラピーってヤツ? 異世界に来てアロマ以外の癒し発見。

 誇り高き狼であるのにワンコ扱いに甘んじてくれてるところも何だかムズムズするくらい愛らしいのに、このタレ目上目遣いは反則級です!


 心の中でひとり愛らしさに「くうぅっ」っと悶絶していると、≪そろそろいいですか?≫と、頭の中に泉くんの無機質な声が。

 いつもより少し無機質味が増してる気がするのは気のせいですか。

 無機質な声な筈なのに、最近では感情があるように感じさせる泉くんである。


 ≪鑑定をすれば性別は判明するのでは?≫

(ごもっともです……)

 愛犬との微笑ましいコミュニケーションしたかった。反省はしていない。


『鑑定』

 鑑定をすると鑑定対象の横に説明書きみたいなモノが表示されるっぽい。

 私が見ている鑑定の説明を泉くんとも共有できるようだ。


 ≪種族はやはりフェンリルですね。それも変異種のようです≫

(あれ? えっ、変異種?)


 ≪神狼族のフェンリルであっても天文学的な低さで変異種は出るという事ですね。情報によればフェンリルといえば白銀の毛色が特徴のひとつです。このフェンリルには銀が全く無い。純白の毛色が過去にあったという情報はこの世界には存在していません。しかし、この狼がフェンリルであるという事は鑑定に出ている通りで間違いないのですから、可能性として変異種であるという事でしょう。≫

(変異種だから同族から迫害を受けてたとかないよね? だから血まみれだったとか……)


 ≪フェンリルの変異種の情報がまだない為、何ともいえません。よって、フェンリルが自分らと違う見た目を禁忌するかという事も分かりません。ただ、この世界には神狼族の個体は変異種である目の前の存在を含めて三体存在しているようです。神狼は神狼同士で群れる事はなく、大体は己の眷属を従えて生活しています。神狼で群れる事はないという事は変異種だからといって迫害を受ける事は考えにくいですが、眷属として従える事の多い狼族に長として認められずに攻撃された可能性はあります。≫

(そっか……そうじゃないといいね。仲間にして貰えないのって辛いもん)


 人間の世界だって異分子は受入れられにくい。

 みんなと少し違うっていうのが受け入れられづらいっていうのは、どんな種でも世界でも一緒なのかもしれない。


 ≪マスターが主として名付けることで、変異種のフェンリルが寂しい思いをする事はなくなりますよ。ですので、早く名付けをしましょう。≫


 感傷的になっていると、泉くんが淡々と先を促してくる。

 感情のない平坦な声色の泉くんに脳内で話しかけられていると、何だか感傷的になった自分が冷静になってく気がする。


(そうよね。私が仲間になればいいよね。ドラゴンだけど……)


 ≪ドラゴンですね。それも最強種のエンシェントドラゴンです。≫


(白で浮かぶ名前かー、真っ白、純白、フランス語で純白といえばブランシュとか? イタリア語ではビアンコ……やっぱ私が日本人だから真っ白でいいかな)


 ≪マスターの世界には様々な言語がありますね。マスターの種族の言葉で名付けられた方が名付けの由来を知った時に嬉しいのではないですか。≫


(ふふ、喜んでくれるといいな)


 名を決めたので、まだマテ中のワンコの前に膝を付いて向き合った。


「ワンコくん、いやオオカミくん? あ、フェンリルくんか……でも、君付けってヘン?」


 ≪マスター、余計なことはいいので、さっさと名付けして下さい。≫

(は、はぁい……)


「キミの名前は真っ白……マシロに決定!」

「ガウ!」


 了解とでも返事したように鳴くと、フェンリルの額が光り輝いた。

 その輝きの中から白く輝く糸のようなものが伸びてきた。

 糸は私の手首にくるくると何重にも巻き付くと、最後に強く輝いてパッと消えた。


「えっ、なに!?」

 自分の手首を表と裏と返しながら確認するが何もない。


 ≪眷属の契約が成立しました。神狼フェンリル・マシロはマスターの眷属となりました。先ほどマシロから伸びていた輝きを放っていた糸のようなモノはマスターとマシロの魂を繋ぐ意味があります。≫


 何か魂とか出てくると怖いんですけど……。


(気楽な仲間感が無くてガッチリ感が強くて気後れするわ……)

 ≪マスター、マシロが期待に満ちた目で見つめていますよ。≫

(えっ)


 今までよりも毛並みが良くなり少し大きさも増したマシロが居た。

 瞳のキュルン度も増した気がする。

 可愛すぎではないだろうか。


「マシロと私はこれから仲間だよ! 仲良くしようね!」

「ガウッ!」


 マシロが元気よく返事をくれたので嬉しくなる。

 つやっつやの毛並みを確かめるようにナデナデしまくる。

 気持ちよさそうに目を細めるマシロ。

 可愛すぎではないだろうか。


 ≪マスター、顔が溶けてますよ。誰にも見せれない顔に……≫


 マシロが可愛いのが悪いと思います。



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