第9話
――――あれから。
お腹を満たしたら去るだろうと思っていた白わんこは、食べさせたオーク肉によってすっかり餌付けされたのか、私と生活を共にしていた。
魔窟の森でワンコと生活しながら、思いつくまま『この世界ってどんな世界?』とか『ドラゴンってこの世界ではどん立ち位置?』などの 疑問をパッと浮かんでは尋ねて泉くんに解消して貰っていた。
人化出来るんだからさっさと街に行っても良かったんだろうし、スキルの泉くんに情報はその場ですぐに訊けたかもしれないけど、やっぱり知識があるとないとでは瞬間的な対応に差があると思うのだ。
やらかした後に「あ……」ってなっても取り消せない。知らぬうちにとんでもない事に巻きこまれるのも御免である。
知識や情報は前もってあって困る事もないしね。
それによると、この世界は多種多様な種族が存在していて、種族間での表立っての諍いはないようだ。
ドラゴンも私の他にも存在していて、魔法の属性と同じ数のドラゴンがいるらしい。
ワイバーンというドラゴンに似た種もいて間違え易いが、それは別種。
ドラゴンは属性を司る神聖な種として崇められる対象というのが共通認識とのこと。
この世界の魔素から成した魔力には色がある。その色は八種類。
それらを八大属性と呼び、炎地水風雷氷光闇の八つに分類される。
属性の色が濃い程、その属性との親和性が高いとされ高位魔法を使用する事も出来るのだとか。
それぞれの属性ドラゴンには神殿が建てられ、その属性の色を持つ魔力の者達は己の魔力に何かあればまず神殿に相談するという。
エンシェントドラゴンの神殿はない。だって全属性だから。
全属性持ちはこの世界に存在するかどうかも不明であり、そもそもエンシェントドラゴンが存在しているかすらも、長い時を経て語り継がれていくうちにお伽噺化しているそうだ。
……お伽話のドラゴンが私かー。
人前にエンシェントドラゴンで出る事はないだろうけど、何だかなあ。
この世界で作り話のような存在っていうのも……まぁ仮暮らしですけどね。
という訳で、属性を司るドラゴンはよほどのことが無ければ討伐対象にはならないそうだ。
そもそも討伐出来るほどの強さなのかという所だけれど。
泉くんが言うには、伝承では番を失ったドラゴンが狂竜化して国を破壊しようとした時、他属性の竜が力を貸し暴走を止めたと伝わってるんだって。
番ってあの番だよね、唯一無二で比翼連理の存在。
泉くんの知識では、番関連以外でドラゴンが暴走する事はほぼないので、ドラゴンは凶暴な性格じゃないのかもしれない。
私がいうなって話だけど、私は中身人間の意識の方が強いですから。
という訳で、泉くんに教えて貰った限りでは、ドラゴンは討伐対象にならないってだけでとっても安心したのだった。
そろそろ街とか行きたいなあ……と思い始めている。
♦♢♦
「よく食べるねぇ……。まぁドラゴン化した私よりは食べないけど、食べれば食べる程に体が大きくなっていってる気がするんだけど、犬の成長速度ってこんな早いものなの?」
呆れたような溜息をこぼしつつ、出された肉を次々とむしゃむしゃ食べるわんこにジト目を向ける。
出会った当初は中型犬サイズだったわんこ。
二か月経過した今、馬くらいの大きさである。
中型犬が二か月で馬サイズ……さすがに前世のわんこでそんな種はいなかった……よね?
思わず小首を傾げつつ、まじまじとわんこを見つめた。
真っ白な毛にところどころ銀が混じった不思議な毛色。
飼い主の欲目かもしれないが、顔立ちもスッキリとしていて美しく凛々しい気がしないでもない。
ラノベとかで読む「フェンリル」とかいう狼だったりしてね。
流石にそれはないか。
ファンタジー世界にドラゴンで転生したからか、こういう王道ともいえる出会いにある定番パターンを思い浮かべてしまった。
≪その予想は正解ですね。白銀の神狼「フェンリル」で間違いないかと思われます。餌付けをした事により神狼と繋がりが出来て、今現在は主からの眷属化待ち状態になってますけどね。≫
突然頭の中に響く泉くんの音声。
「な、なんで!? 餌付けで繋がりが出来て眷属化待ちってどういう事なの……?」
こういうのって名前とか付けてしまって眷属とかになるのでは?
≪そうです。名づけを行う事によって眷属化して主と今生での絆を繋ぎます。だから眷属化待ちということです。まだ名づけを行っていませんからね。≫
目の前で塊肉を美味しそうに食べているわんこを見つめる。
≪主の側から片時も離れませんし常に行動を共にする様子から、もう主以外の眷属になるつもりは無さそうですしね。だから、主が名づけしてくれるのを急かす事なく待っているのでしょう。≫
(そっか……待ってくれてるのか。そんな状態だって今気づいたけど、ずっと待っててくれてる所がいじらしくてキュンとするわー。)
思わず手が伸びてわんこの頭をなでなでしてしまう。
愛くるしいというにはキリッとした顔立ちだけど、目がきゅるんとしているわんこ……いや狼だったか。
≪名づけしますか?≫
(そうね……私以外の眷属になるつもりがなくてずっと側で待っててくれてたのなら、その気持ちに応えてあげたいな)
「うん、名づけしてあげようと思う。」
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