第7話

 この世界の中でも魔窟の森、魔王の森と呼ばれ人々から恐れられ各国から不可侵が共通認識されている、そんな森の奥――――


 鬱蒼とした木々に囲まれた中心地に、狼煙のような白い煙がもくもくと上空へとあがっている。


 夜の帳が降りる少し前の、日が沈みきる前のひと時。

 空が赤と青と黒を混ぜたような黒くは成りきれない、そんな時間。

 毛玉モドキに転生させられた私のドラゴン生活も一日半ほどを迎えていた。



 木の枝に刺した拳大の肉の塊が数本。

 それを焚火を囲むように地面に突き刺し、時折裏表を返しながら焼いている。

 塩や胡椒など肉を劇的に美味しくしてくれる有難い調味料などは勿論手元にはない。

 だけど、肉って焼くだけで美味しそう。

 細い木の枝を串がわりにして肉を刺す作業はドラゴンの姿だとやりにくいので、人化して人の姿で作業していた。


 鏡も何もないので人化した時の己の姿は分からない。

 けれど、髪が腰より下にさらに長く、それがかなり白っぽい銀色?

 毛先を手に取り確認する、焚火の火の輝きに薄っすらと照らされた髪は、艶がありとても綺麗な髪だ。


「そろそろかな? おおー、いい色。肉は少し焦げた方が好きなんだよね。」


 油が程よく落ち少し生肉よりは縮んだ肉は、泉くんに教えて貰ったオーク肉である。

 砂糖に集る蟻のように私に集まってきた魔物の大群を無差別に絶命させていたから、その中にまさかオークも居たとは思わなかった。


 木の枝を持ち、カトラリーの類は一切ないので、軽く息を吹きかけ熱を飛ばしそのまま直に肉に噛り付く。


「んんっ! んまい!」


 滴る油を体を後ろに退くことで避けつつ、口の中に広がる肉のうまみに目がカッと開いた。


 いやいやいや、これ豚肉より美味しいんじゃないの!?

 オーク肉の味の旨さに驚く。

 調味料を一切使ってないことで、肉の味がはっきりと分かるから余計に良さが際立つ。


「オーク肉ヤバい。うふふ、これは他の魔物肉の期待値も上がっちゃうねぇ」


 咀嚼しながら満面の笑みになった。

 異世界に何の楽しみがあるか想像してなかったけど、食の楽しみがあるかもしれない。


(アイテムボックスも超優秀仕様だったもんなぁ)


 泉くんに教えて貰った私のアイテムボックス性能は、時間停止機能付きだった。

 これでしばらく肉には困らないと胸をなでおろしたものの、解体という非常に凄惨で血生臭い処理をしなければいけない事が憂鬱だった。

 日本で生活していた時は、肉といえば全て解体され部位のみを綺麗に切り分けられて白い発泡スチロールの上に存在して売ってるものだ。

 それを一からその状態に持っていく、そもそも処理し切り分ける道具もない。

 ドラゴンの爪でやれって? と深刻に考えていた。

 けれど、問題は泉くんの説明であっさりと解決した。

 アイテムボックスは出し入れだけではなくて、中で綺麗に仕分けされた状態になっているってこと。

 ゲームの中の持ち物を確認する時のように、中で細かく種類ごとに仕分けされた画面を見させられた。

 その中にあった魔物のカテゴリーを選ぶと、さらに細分化されていた。

 そのうちのひとつにオークがいて、オークを選ぶと“解体しますか?”と出てくるのだ。解体しない場合はそれを断るとそのままの状態で目の前に出てきた。

 絶命した姿そのままの姿に思わず「ひぇっ」と声が漏れ出たのは仕方ない事である。

 もう一度アイテムボックスの中に戻して、今度はちゃんと“解体しますか?”の問いかけに“はい”を選んだのだった。

 皮や骨や肉等を事細かに解体されたオーク。

 その肉もバラやモモなど細かい。まるでスーパーで部位ごとに選ぶように選択できる。薄くするか塊のままにするかもアイテムボックス内で選べるんだから眉唾ものだった。

 異世界だったら塊肉でしょ! と、謎の決意を胸に塊肉を出して貰って焼いて食して「うまー!!」の今なのである。


「人化して食べてるとお腹いっぱいになるの早いな……ドラゴン化するとこの数十倍必要な胃袋だった気がする。結構な量の果実食べたし。節約を考えるなら食事の際は人化一択だなー。」


 串焼き三本も食べるともう何も入らないくらい満腹である。

 女子にしては結構な量食べてない? という突っ込みは不要である。

 野外で大変なのは火熾しだけど、そこは異世界という事で焚火は火魔法で一発で熾せるから、すごい楽。


 魔物が寄ってきても、結界とバリアで余裕だしな。

 普通は動物や魔物除けに火を切らさないようにしないとだろうけど、消す事にする。

 余った焼いた塊肉は明日の食事に回す為、アイテムボックスに放り込んでおけばいいや。


 満腹感でぼんやりと考えていると、ガサッと背後で物音がした。

 思わずビクッとしてしまい、後ろを振り返る。


(魔物は近づけない筈だけど、何の音?)


 振り返った先には――――


 血まみれの白いわんこがいた。



 ✂--------------------------


 説明回が長くて申し訳ないです(;;´ρ`)

 後、一、二話ほどで前置き話が終わるかな?

 宜しくお願いしますm( _ _ )m


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