第29話

そこの5人。気配や雰囲気から既にそこらの魔人とは次元が違った。1人は体から火炎精霊ボーマとはまた違った炎の出し方をしている男。1人は性別もよく分からない全身がブリキになっている魔人。1人は首に魚のえらのようなもの、腕にヒレのようなものがついた水色の肌をした美少女。1人は紫色の和服に身を包んだ美女。最後の1人は右翼が天使、左翼が堕天使の羽になっている大天使のような長髪の男だった。


「我々は脅威となりうる魔力を感知したからソイツの身柄を確保しに来たまでだ。さあ、この中で異常な魔力を持った人間がいるならば早く渡してもらおうか。さもなくば、部外者から犠牲が出ることになるぞ。今日は決して無駄な争いをする為に来たのではない」

「その割には派手にやってくれてるみたいだが。この中に異常な魔力が検出されるヤツなんていないはずだ」

「何をしらばっくれているのだ?自分でも分かっているだろう?」

「まさか、俺のことか?」

「ああ、その通りだ。しかし、王女のお気に入りを殺しちゃ戦争は免れないか。さて、俺たちと契約でもするか?さっきも言わせてもらったが、無駄な争いをする為に来たワケじゃないから慎重に考えたまえ」

「だったら俺はお前たちを殺す。ただ、ここで全員殺すと面白くないからそれぞれの持ち場で待ってるといいさ。きっと殺しに行ってやる。その代わり、お前らも全力で俺を殺しに来い」

「小僧、いい覚悟だ。ならばベルフェゴール、今はお前が相手してやれ」

「ルシファー殿、ここで俺を指名するとか…、ああ、だる…。こんなところで戦わなきゃいけないとか面倒くせぇな」

「これは幹部長命令だ。逆らえばここでお前を半殺しにする」

「…はいはい、やればいいんでしょ?そんじゃ、俺はここで死ぬモンだと思って頑張ってくださいよ」

「死ぬ前提で行かれては困る。全力で捻り潰してこい」


こうして、目の前からは迅雷のベルフェゴール以外が消えていた。


「小僧、お前に戦う意志はあるか?」

「ある。お前もかつては世界を苦しめた魔王軍幹部の1人だ。今ここで復活できないようにしてやる」

「はぁ…、んじゃあ、外で戦わないか?ここの宮殿、ずいぶん煌びやかだしこんなところで戦ったらきっとアイツが怒るから」

「アイツって誰だ?」

「殺された幹部の1人、黄金好きのマモン殿。仲良かったのに殺されちゃってさ」

「そうか…。それで、お前にも戦意はあるのか?」

「本当は無いって言いたいところだけど、戦わなかったらルシファー殿に殺されるからなぁ。どうせ死ぬなら名誉の戦死にしたいからな」

「なら、殺してやるから抵抗せずに大人しくしてろ」

「それも嫌なんだ。あの世にいるアスモデウス殿にも顔向けできなくなるから全力でやらせてもらう」

「いいだろう。なら、かかってこい!」



俺たち2人(?)は外に来ていた。互いに睨み合っていたが姿が消えたと思った瞬間、体に電気を帯びながらベルフェゴールが俺にパンチを喰らわせに来ていた。咄嗟に出した右腕で防ぐことはできたが、かなりの圧がかけられていた。


「ほう。流石は俺たちよりも魔力が高いだけはある。しかし、これはどうかな?」


その時、腕で防いでいた拳が爆発した。俺に火炎攻撃・爆発攻撃が通用しないことは知らなかったらしい。


「馬鹿な!?あの威力を喰らって無傷だと…!?魔物すら耐えられないというのに…」

「あいにく俺は人間で唯一の【炎王】持ちだからな。爆破魔法とか通用しないんだよ。これがお前の限界か?」

「俺は2人の分まで生きてやるって決めたんだ。面倒なことも、辞めたいこともたくさんあるけど、こんな怠惰な俺でも、魔王軍幹部の1人なんだ!」


ベルフェゴールは再び全身に電気をまとうと、俺に向かって跳んできた。


「悪いな。お前はルシファーに捨て駒にされたらしい。お前は確実にここで死ぬ。生き返ることもできないだろうな」

「どういう、ことだ?」

「こういうことだよ!」


俺は拳に蒼い炎を握りしめて彼の腹に向かってパンチした。


「俺を熔解するつもりか?甘いな、我はミスリルよりも固く、この世界の中でも最高クラスの融点だから熔かせるはずがない」

「それはどうかな?」


俺の思ったよりも早くアリスが助太刀に入ってきて、ベルフェゴールはその金属でできた体を少しずつ熔かされていく。


「馬鹿な!?火炎精霊でもここまでの温度を出すことはできないはずだ!俺は本当にここで死ぬのか?」

「ああ。やっとお前の想っているマモンとアスモデウスに会えるぞ」

「悔しい。怠惰なはずの俺がこんな感情を味わったのは初めてだ。ありがとう。そして、最後に1つ伝えたいことがある」

「伝えたいこと?」

「耐熱があるのなら、俺の核を胸の辺りから引き抜いてくれ。それを砕いて飲んで、雷魔法も使えるようにしてくれ。レヴィアタンに、勝つ、には、これが有効、だ…」


そう言い残して彼は融け、そして消滅した。


「レントさん、これであと4人だね」

「ああ。でも、今はアリスが助太刀してくれなかったらもっと長期戦になってたところだったけど。魔王軍の幹部も2人で1人を倒せるレベルなら他のみんなには待機してもらって2人でいかないか?」

「え?何で?」

「じゃないと、余計な犠牲者が出るかもしれないだろ。まあ、国王様から許可が下りればの話だけど」


こうして、魔王軍幹部を討伐することになった。

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