第26話

俺たちは今、アリスの実家の中に居た。目の前にいるのはアリスの親父さんとアリスと同い年くらいに見える少年の火炎精霊ボーマだった。


「2人とも、何があってあんなことをしてたのかはっきり説明して。レントさんの顔に攻撃が当たったんだから」

「それなら、儂らの尋問よりもその怪我人の手当てを優先すべきだろう。ただ、あの熱量の火炎弾を直に喰らってちゃもう死んでるかもしれない。お前の連れだったんなら、親子だとか関係なく真剣に謝罪させてもらいたい」


親父さん、いい人なんだろう。一般人を巻き込む気は一切なかったようだ。ここまで言ってくれてると生きてるなんて言い出しにくい気もするけど、罪悪感が少しでもなくなれば、と思って生きていることを申し出た。


「あの、確かに攻撃は当たりましたが俺は死んでないので全く問題無いですよ。だから安心してください」

「ゆ、幽霊!?ああ、お許しください、お許しください!!愚かしき儂は呪い殺しても構わないから娘と娘の友人だけは生かしてください!」

「…。だから、死んでないですよ。はら、何なら触ってみればわかりますよ。少し手を貸してもらっても…」

「もし仮に本当に君が死んでいなくて今目の前に生きているとしても、儂ら火炎精霊に触ったら重傷とも呼べる規模の火傷になりかねないぞ」

「じゃあ問題です。俺は確かにあなたの攻撃を喰らいました、しかし生きています。それはどうしてでしょう」

「そ、そりゃただの偶然だろ?見るからに君は何の変哲もない人間だし、魔道具で回避した形跡も見られないし…」

「俺、人間で唯一【炎王】の発動者なんですよ」

「…さすがに娘の友達でも、そんな話は冗談としか思えない。儂は男手1つでアリスを育ててきた。アリスの熱量では普通の火炎精霊用の物すら融けてしまうほどだったから家も家具も特注品だ。つまり、儂は今までアリスに関わって幾つかのイレギュラーに立ち向かってきたが、人間で【炎王】を発動した者は1人しか聞いたことがない」

「え?それって誰のことですか?」


まさか、俺の他にも【炎王】を発動してる人間がいるとは思ってなかった。つまり、俺はいずれソイツと対峙することにでもなるのだろうか…?


「その【炎王】を持つ者は、勇者レイカの息子、レント・アルグリアだ」


その瞬間、俺は安心感からか大笑いしてしまった。


「な、何かおかしかったかい?」

「い、いや、それ、俺ですよ」

「本当かね、アリス?」

「はい。レントさんはすぐそこの多種多様な種族が暮らしている街で有名なんですよ。それと、レントさんは私の恋人です」

「…は?ボ、火炎精霊ボーマと人間の恋愛なんておとぎ話の中だけのはず…。そんなことが現実であり得るのか!?」

「あり得るんだよ。なら、証明に今ここでキスしてみよっか?」


アリスがそう言った時、ずっと親父さんの隣で腕組みをしていた少年が何かに耐えかねたように勢いよく立ち上がった。


「俺がお前の父さんと戦ってた理由、聞かせてやろうか?」

「何、ネローダ?もしかして私のことをストーキングしてて、私を寝取ったレントさんに嫉妬でもしてるんでしょ?」


あー、俺、一応まだ成人してないからソッチ系の用語使うの止めてもらえないかな…。何も事情知らないご近所さんが聞いたら根も葉もない噂が立つ羽目になるとか無きにしもあらずだから。


「だ、だいたい、お前らはまだ一緒のベッドで寝たのは昨日の夜だけだろ!だから寝取るとか絶対にありえねぇだろ!」

「あれあれ?やっぱり私のことストーキングしてるの?何でそんなこと知ってるのかな~?どうしてだろ~?」

「たっ、たまたま言い当てただけだ!ストーキングとかしてねぇし」

「それで、お父さんと戦ってた理由は?」

「俺の16の誕生日にアリスと結婚させてくれるって話があったのに、娘は呼べないとかワケの分かんねぇこと言い出したから力でねじ伏せて無理やり呼ばせようとしてたところなんだよ」

「あー、よかった。私、レントさんみたいな人に出会えて本っ当によかった」


急にそんなこと言われると恥ずかしくなってくるんだが…。うん、俺もアリス、いや、愛梨沙に出会えて、昔の記憶が無い所為で少し昔とは違うけど再会できてよかった。


「きゅ、急にどうしたんだよ。俺も、アリスび出会えてよかったとは思ってるけど…。こんなところで言うことか?」

「やっぱり恥ずかしくなっちゃった?でも、これは私の本心だよ。ネローダみたいな傍若無人な男と結婚せずに済むこともありがたいし」


その時、目の前の少年の顔が怒りで真っ赤になった。こういうの、正直アニメだけだと思ってたけど…。


「よし決めた!ガキ、今から決闘しようじゃないか。勝った方がアリスと結婚、負けた方は土下座して一生勝った方に関わらないことを大声で誓う。この条件でいいか?勝ち負けは、相手を戦闘不能に追い込むことだ」


うーん。この勝負、素直に受け取って瞬殺するのが吉なんだろうけども。こうなったら、一言で全て終わらせてやる。

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