第23話

俺は悩んでいた。この前セラの屋敷に行った時に倒した、あるいは降参させた給仕や警備員たちに

対してとのような対応をとるべきか…。

火炎魔法が使える相手だと分かった上で俺の指示に従ったんだとは思うけど、ちゃんと屋敷で待機してくれているかどうかが不安だった。


「ねえレントくん。この前のセラちゃんの家の人たちをどうするかについて話なんだけど、私にいい案があるの」

「それって?」

「そ、その…、私のお家で働かせればいいと思うんだけど、どうかな?」

「なるほど、その手があったか。でも、そんなことしたらおじさんが困らないか?いくら辺境伯様の屋敷とは言っても今の人数で給仕は足りてるんじゃないのか?」

「いえ、お父様は最近になって商会を始めたところなかなか繁盛しているみたいで、そっちの従業員に回せばいいんじゃないのかな」

「そもそも、手紙でやり取りはしてるみたいだがもう2年近く会ってないだろ?せっかくだから直談判に行かないか?」


その時、後ろで炎が勢いよく燃え上がる音がした。恐る恐る振り返ると、俺が温度調節をしたおかげで家の中に入れているアリスがハイライトオフの状態で立っていた。今更俺がティアに盗られるとでも勘違いしたのか、手の中で青蒼い炎を燃え滾らせていた。


「もちろん、私もついて行くんだよね?今更レントさんを盗るなんて許さないからね?」

「べ、別にそういうつもりじゃないんだけど…。まあ、もしもついて来るんだったら明日の朝までに荷物用意しといてね」

「分かった」


そういえば、まだアリスの親御さんに会ってないな…。親父さんに勝手に娘を奪ったクソガキ…しかも13歳の…くらいにしか思われないかもしれないけど、この件が終わったら顔出しにでも行ってみるか。



俺たち3人は馬車に揺られながらおじさんの家、ティアの屋敷を目指していた。アリスは初めて乗った馬車に大はしゃぎだった。


「まさか私が馬車に乗れる日が来るなんて思わなかったな…。ホント、レントさんに出会えてよかったよ~」

「そ、そういえば、まだ俺たちキスできてなかったな」

「あの時は王女様に邪魔されちゃったもんね。それで、確かファーストキスはティアちゃんに盗られちゃったんだっけ?」

「ま、まあな。でも、もしも俺がアリスに出会ってなかったらティアと結婚してただろうし…」

「なに、言い訳して逃げるつもり?無理やりキスされたとかなら分かるけど、レントさんは承認したんでしょ?」

「べ、別に言い訳とかそういうつもりで言ったんじゃないけども…。もしもアリスが今したいって言うんならしてもいいけど」

「じゃ、じゃあ、ちょっとだけ…」


そして、俺とアリスは互いに恥じらいながら顔を近づけていった。俺は、そっと目を閉じたがその時…。

馬車が急停止して荷台の俺たちはよろめき、キスをし損ねた。


「な、何があったんですか!?」

「オ、オークの群れだ。お客さんたち、さっさと逃げるぞ」

「大丈夫です。俺たちが戦いますから」

「無茶だろ。君、きっと冒険者学校を卒業するかしたかくらいだろう」

「ですが、問題ありません。何しろ火炎魔法が使えますから」

「冗談言って死なれたらたまったモンじゃないよお客さん。悪いことは言わないから逃げるぞ」

「そんなこと言ってるうちに目と鼻の先です。手早く終わらせますね」


俺は右手の中に炎を凝縮させて、オークどもに向かって放った。すると、途端にオークどもは肉塊になって散った。


「す、すごいな、君。まさか本当に人間で火炎魔法が使える子供がいるとは…。噂には聞いてたんだが」

「まあ、俺は昔からこの力をいろんなことに役立てていましたから」


そして馬車は再び動き出した。俺たちは、また向かい合った。


「そ、それで、キスはするの?」

「そ、それは…」


すると、急にアリスは俺に抱き着いてきた。気づくと俺の唇には柔らかく熱いものが押しつけられていた。

俺は何が起きているのか理解するまでに少し時間はかかったけど、しばらくはその感触を愉しむことにした。


「お客さん、子供のはずなのに熱いねぇ~」


運転手?の人にそう茶化されて初めてアリスは自分のしていることに気づいたのか俺を放して飛びのいた。


「ど、どうだった?私とのキスは…」

「う、うん。よかった」

「ティアちゃんのと比べたらどうだった?」

「そ、そりゃ、アリスの方に決まってる」

「レントさんがそう言ってくれるなら嬉しいけど…。恥ずかしいからやっぱり人前ではキスしたくないかも」

「でも、もし俺がキスしたいって言ったら?」

「その時は考えるけど…」


そんな会話をしているうちに、おじさん…もといティアのお父さんの屋敷がある街が見えてきた。


「ねえ、レントくん、アリスさん。ちょっと迷惑かけちゃうかも」

「え?どういうこと?」

「お父様、ずっと私とレントくんが結婚するのが楽しみだったみたいだからさ、もしかしたらメチャクチャ怒っちゃうかもだけど許してね」


そして俺たちは馬車を降りた。すると、物凄い勢いで誰かが馬に跨って走ってきた。おじさんのお迎え、か。

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