第22話
セラの前に立ち塞がった我に対し、隔離された別の部屋から話しかけてくる男は我に向かって言い放った。
「貴様が、セラをここまで育て上げてくれた師匠とやらか。誠にご苦労、セラの父親として感謝したい」
「お前のような愚か者にセラの父親を名乗る資格はありません。この
「弟子の父親を殺す、と申すか。セラ、お前の師匠は狂人か?どうやら、お前は師匠選びを間違えたようだな」
魔道具でも使っているのか千里眼を使っても全く姿が見当たらない。娘の脅威から逃げる、それでも本当に父親を名乗るつもりか?
「お前、今更セラを取り戻すということは何かしら企てているんですね?それとも、最初から計画通りだったのですか?」
「私の代わりに2人を迎えに行った奴も居候先の坊主に同じようなことを言われたらしい。まあ、私の一人称を俺などと間違えるなんてミスをしたようだから殺したが。私がそんな悪人面をしてるか?お前にはそう見えるか?」
「しかし、セラを山に捨てたことに変わりはない。だからこそ、我はお前を、セラの父親などと名乗った罪で裁く。父親であらば子のどんな悪戯、ワガママにも目を瞑り、たまに叱ることはあれど責任をもって大人になるまで育てる。それでこそ、父親です」
「ならば、セラ本人にどちらが本当の父親かを選ばせればいい。父親に選ばれた方はセラを育てる。選ばれなかった方は、以後この件について一切関わらない、選ばれた方とセラに一生関わらない。この条件でどうだ?」
「いいだろう。結果は見えている」
「貴様の負け、だろ?」
「いや、我の勝ちだ」
我はセラの方を見た。セラは何かを悩んでいるようだが、どちらが父親かを悩む必要はないはずだ。育児放棄をしたこの最低な男を父親に選ぶなど、ありえない。
「セラ…、どっちも選べない」
「「は?」」
「だって、ビリオンのお父さんが産んでくれなかったら、セラは師匠に出会えてなかった。セラは、どっちを選んでも本当のお父さんには会えない」
「ど、どういうことだ?我が育てたんだから、我が父親だ」
「お前は私を選ばなければお母さんがいないことになるんだぞ。私が父親だ」
そして、セラはまた考えこむと少しして何かを閃いたようだ。顔を上げて、自信満々に勝利宣言とも言える一言を言った。
「じゃあ、セラを抱きしめて。セラには人を殺しちゃう力がある。でも、私と抱きしめ合っても死んじゃわなければそっちがお父さんだよ」
「ぐっ…」
勝ったな。あの男には精霊の加護も何もない。妖術で生命力を吸われないようにしている我こそが父親だ。
「どうされました?父親かどうか証明したいんだったらセラを抱きしめに来るんだな。もしも来ないと負けになりますよ」
「く、くそ…。そこまで言うならばくれてやろう。しかし、絶対に不幸にしてやる…」
「セラもろとも、か?」
「ああそうだ!もう赤の他人なんだ、何をしようと私の勝手だろう。不幸のどん底まで叩き落してくれる」
「自分で提示した条件をそんな簡単に破るんですか?最低ですね。お前なんかが父親じゃなければ、我とセラが出会うことはなくても、もっと幸せな人生を歩めていたはずです」
「私が条件を破ろうと関係ないだろ。さあ、恐怖に震えて待っていろ!」
「誰が、お利口にお前のことなんかを待っていてやると言いましたか?もう我慢の限界です」
我は全速力で壁に突っ込んでいき、その男がいる部屋に着いた。
「ば、馬鹿な!?何故ここに私がいることが分かった…?」
「千里眼なんて天狗の
「いい親に、って…。俺に情けをかけるつもりか?…ん?来世?死んでくれますか?お、おい、ちょっと待て」
「我との約束、守ってくださいね」
我は愛用の錫杖<蓬莱の珠の枝>で男を突き殺した。錫杖の輝きが血を鮮やかなルビーに錯覚させた。それくらい、命は尊いのだ。しかし、これほどに人の命を軽く見ている愚民は例外だ。
我がセラのもとに戻ると彼女はびっくりしたような顔をしたが、あの鼻声がなくなって静かになった空間に何があったかを察し、すぐにほっとしたような、悲しむような複雑な表情をした。
「すまない、弟が死ぬ前にあの男を殺すことができなくて。許してほしい。セラ、お前にとって我は師匠かもしれない。でも、我にとってセラは我が子なんだ。これからも、我の子供であってくれますか?」
「いいよ、師匠。それとも、これからはお父さんって呼んだ方がいい?」
「べ、別にそれはセラの判断に任せますけど…」
「じゃあ、これからもよろしくね、お父さん」
*
「ええ!?山に戻る!?」
俺は、セラがとくに連れられて戻ってきた矢先にこんなことを言いだすとは思いもしなかった。
「だから、明日からセラはお父さんと生活する。パーティーからも抜けるし、みんなに悲しませちゃうかもしれないけど、私も頑張るから3人も頑張ってね」
こうして翌日、セラは本当にとくと一緒に山で暮らすことになったのだった。
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