第21話

我は、自分のしたことは間違っていない。そう確信している。妖怪を取り込んだということも知らず、スキルだと決めつけて異能の娘を山に捨て、都合が良くなったからか何かを企てているからかは知らないが10年以上経って今更迎えに来るなど我は認めない。

セラは我の娘だ。たった1人の愛娘まなむすめだ。我以外の誰にも、セラの親を名乗ることは許さない。

我はセラのいる部屋の前に着き、様子見の為に耳を澄ましながら千里眼で部屋の中を見ていた。どうやら、別の部屋からあの男が話しているらしいが、だとすれば横にいるのは弟か。



「これより、セラに生贄を捧げ、その力について再確認する為の実験を始める。ビリオン、準備はいいな?」

「はい。父上の為とあらば覚悟を決め、命すら惜しみません。僕に言い残すことはありますか?」

「私の愛しき息子よ。私の為にその命を投げ出してくれてありがとう。私はお前とセラの会話を傍聴している。死ぬまでの時間、話したいことを話していなさい」


こうして、実験は始まった。セラの【インヘル・バイタリティ】の効果を確認する為の、ビリオンを処刑する為の実験が。


「お姉ちゃん、部屋のすみっこに縮こまってずにこっちにおいでよ。一緒に話そう」

「いや。セラ、君を殺したくない。セラの近くの人、みんな死んじゃうから…。それより、レントたちのところに戻して」

「お姉ちゃん、ワガママ言ってももう戻れないんだよ。お姉ちゃんは僕を殺すまではこの部屋から出られないよ。でも、僕を殺したくないからって自殺しようとしても僕の生命力が削れてっちゃうだけだから逆効果だよ」

「そ、そんな…。じゃ、じゃあ、セラのいなかった時のことを教えて」

「僕が物心ついた時にはもうお姉ちゃんはいなかった。でも、母上が口癖のように言ってました、『お前が大きくなったら、お姉ちゃんは戻ってくる』って。僕はお姉ちゃんについてあんまり教えてもらわなかったけど、多分、お姉ちゃんよりもいい生活してきたんだよね、僕。正直、お姉ちゃんには申し訳ないと思ってるよ」

「違う!セラはこんなところよりもいいところに居たから。師匠がいて、師匠に言葉とか、戦い方とか、何から何まで教えてもらった。セラの周りにいた生き物はみんなすぐに死んじゃうのに、師匠は死ななかった。それどころか、師匠はセラが殺しちゃった生き物まで生き返らせてた」

「その、師匠って誰のことなの?」

「背中から大きな翼が生えてて、かっこよくて、でも、服だけは変なのを着てて…。でも、面白くて、強くて、優しくて…。セラの、本当のお父さん。だから、セラの居場所はここじゃない」

「そうか。400年前からごく稀に観測された天人<テング>かもしれないね。おっと、僕の生命力も段々減ってきてるみたいだ。足元がおぼつかないよ。お姉ちゃんは人間の温かさを知ってる?」

「知ってる。セラ、師匠に伝えられてなくて、心配かけちゃってるかもしれないけど、レントたちとは半年くらい一緒だったから。でも、まだレントたちに師匠を紹介してないし、ずっと1人だってウソ吐いちゃったし…」

「ね、ねえ、僕はもう限界が近いかも…。ほら、口から血が…。ガフッ…。ねえ、最後にさ、僕と…、僕とハグくらいしようよ…。今日逢ったばっかの弟かもしれない…、けど…。それでも、僕は、お姉ちゃんの、弟なんだ…」

「ダメ!こっち来たら余計に早く死んじゃうよ…。こっち来ないで!」

「姉弟なのに…、僕たちは、普通に、幸せな日々を過ごすことも、許されないんだね…。僕、弟だから、お姉ちゃんに膝枕くらい、されたかったな…。異世界の、人たちが、作ってくれたお話、みたいに…」


そう言って、ビリオンは呼吸が止まり、目の中の輝きは失せ、動かなくなった。


「…え…。し、死んじゃったの?嫌!嫌だよ!こんなの、絶対ウソだよ、夢だよ…。ほら、膝枕してあげるから起きて。ねぇ、ほら、お願い…」


それも虚しく、ビリオンは目覚めなかった。


「ごめんね、殺しちゃって…。セラも、もっと君と、過ごしていたかったのかな…?分かんないよ、師匠…。お願い、来て…」


そう言いながら泣き崩れるセラに、とくはどうしたらいいのか分からなくなった。ただ、2人ともの頬を静かに1滴の涙が滴り落ちた。


「実験終了。本当に済まない、ビリオン。そしてセラよ、今度からはその能力を人の為に役立てることができるぞ」

「そんなの絶対ウソだよ。きっと、それがホントだとしても、死ぬはずじゃなかった人まで死んじゃう。だから、人の為でもこの力は…」

「それは制御できるものじゃないんだ。常に発動しているからこそ、何かに役立ててお前の存在意義を創り上げるしかないんだ」

「じゃあ、人の為にこの能力が使えないんならセラの存在意義は無いってこと?」

「それはそうだ。存在意義がなければお前は歩く殺戮兵器としか言いようがなくなる」

「なら、こんなところにセラは要らない。師匠やレントたちと一緒にいたい!」



我はもう、覚悟を決めた。壁を蹴破り、部屋に入ってセラを庇うように立ち塞がった。


「し、師匠…」

「セラが我らと共に在りたいと願うなら、我はセラ、お前の為に命を懸ける」


我こそが、セラの真の父親だ!

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