第20話

「悪魔?」


俺はとくの言うことがイマイチ理解できなかった。アリスのどこが悪魔なのだろう。もしかしたら、悪魔的な可愛さってことが言いたいのかもしれない。


「それって、悪魔的に可愛いってことか?さっきのセリフ、お返しするよ。どれだけ必死に懇願しても、アリスはあげないから…」

「そういう問題ではない!なんだ、この悪夢の塊は!!我が住処を滅ぼす厄災そのものではないか!本当に恋人なのか!?それに、人間は火炎精霊ボーマに触れることはできない、触れたとて、蒸発してしまうはず…」

「それが、俺は【炎王】持ちだから火炎精霊にも普通に触れるし火炎魔法も使える。それに、俺とアリスは前世から出会う運命だったんだ」

「そ、そうか。ならば2人に問う。2人は悪事の為、自己都合の為に火炎魔法を悪用したことがあるかい?」

「アリスにそんなことはない。俺が保証する。無論、俺も悪用したことはない。むしろ人の為に使ってる。だからこそちょっとした有名人なんだが」

「ならばよろしい。それと、さっきの悪魔が云々という発言については撤回させていただきます。すまなかった。我、体中から炎を出している火炎精霊はすぐに山を燃やしてしまうという偏見というか、経験からつい…。かつて我の住んでいた山を1人の火炎精霊が燃やしてしまったことがあったので」


話題を変えようとしたのか、とくはさっきまでよりも真面目な顔になった。


それで、ここは勇者の家だな。そして、レントは勇者の息子だな」

「それはそうだけど、何かあるのか?」

「勇者に伝えておいてほしい。我がもっと早く動いていれば魔王の所為であれほどの犠牲者が出ることはなかった。我の怠慢の所為だ。本当に申し訳ない、と」

「そんなことはいいんですよ」


気づくと、部屋にレイカが入ってきていた。


「あなたが、昔噂になっていた天狗様ですか。その件についてですが、私は魔王を殺せたし私なりの最善を尽くせたつもりなので謝らなくてもいいですよ」

「しかし、当時は多くの民衆が死んだことを自分の所為だと悔やんでいたことを我は覚えています。例え我が今ここで謝罪して犠牲者の命が戻ってこないとしても、我よりも強くて勇敢なあなたを悔やませてしまったことを謝らせてください。そして、受け入れてください」

「…いいですよ。それに、セラちゃんの育ての親なんですっけ?あのを半年前まで育ててくださり、こちらこそありがとうございました。もしあなたがいなければ彼女は既に死んでいたかもしれないですから」


この後、しばらくママ友の井戸端会議みたいな雑談が夜まで続いた。そんなことはともかく早いところ救出に行きたい俺だった。



翌朝


「すまない、無駄話は後でもできるがセラは今すぐ助けなければいけないというのに…。さて、3人とも準備はいいですか?」


俺とアリス、ティア頷いた。攫われた家族を取り戻しに、俺たちは旅立つのだ。


「今回は彼女を救出しに行くだけの簡単かつ簡易的な作戦。よって、レント、アリス、ティア、我だけで行くことになるが不満はないな?」

「ああ、問題ない。すぐにでも取り返してこよう」


そして、俺とティアがとくに背負ってもらい、アリスは足や肘から炎を出して飛んで行くことになった。


「2人とも、しっかり捕まってください。アリス、我の速さについて来れますか?」

「はい。最大のスピードで行ってもらっても構いませんよ」


そして、2人は某少年マンガの戦闘シーンの一部かのように猛烈な速度で空を滑空した。俺はどこかで振り落とされるのではないかという恐怖に襲われていたが、雲の上に出るとスピードは落ち着き、胸をなでおろしていた。

しかし、それも束の間。とくの合図とともに2人はさっきまで以上の速度で真っ直ぐに下降していった。


「ちょ、ちょっと!?このままだと地面に不時着すると思うけど!?大丈夫なのか、こんな速さで?」

「ああ、大丈夫なはず…。あ、突っ込む」

「…え?」


俺たちは地面にめり込んだ…と思ったら、アリスととくの周りに巨大なクレーターができていた。見るからにどこかの貴族の屋敷のようだが…。


「侵入者発見、総員、ただちに侵入者を取り押さえろ!」


やっぱり貴族の家だったようで、スーツを着込んだ警備員のような人物たち数人に囲まれてしまった。


「レント、我にお任せあれ。【奥義 旋風】!」


そう言ってとくが手の中の団扇のようなものを振ると、強い風の塊が大量発生して警備員たちを壁や地面に叩き付けた。


「すまない。我が着地地点を間違えてしまったばかりに目的地に入り込んでしまったようだ」

「つまり、ここがセラの家ってことか」

「ああ、確かに彼女の気配は感じる。少し待ってくれ。【千里眼】」


とくは目を力強く見開いて周りを見回した。すると、急に怒りを露わにした。


「愚民よ…。貴様などやはり父親などではない。真の父親は我だ。セラは我の大事な1人娘だ。貴様ごときに好き勝手させるのは我が許さない!」


とくは風の如く飛んでいき、屋敷の1部を突っ込んで破壊し、そのまま突き進んでいった。

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