第19話

「別の目的?」

「はい。でも、これは僕の憶測ですから父上の前では絶対に口に出さないでください。それと、もう少ししたら父上たちが来てしまうと思うんですが、準備はいいですか?」

「えっと…、アリスは火炎精霊ボーマだけど一緒に行っても問題ないか?もしかしたらかつて親族が火炎精霊に触れられて死んだとかそういうことがあるかもしれないから一応確認しておきたい」

「それに関してですが。多分問題ないと思います。しかし、蒼い炎の火炎精霊は初めて見ました。お姉ちゃんとお兄さん、お姉さんがパーティーメンバーという関係なのは見て取れますけど、お兄さんと火炎精霊のお姉さんは少し関係が違うみたいですね。あ、これも憶測というか、偏見なんですけど…」

「わ、分かり安かったか?まあ、俺たちはまだ両想いであることは分かったけど、カップルなのか婚約者なのかちょっとまだ微妙で…」


その時、窓の外から顔を覗かせたアリスが顔を真っ赤にしながら誤魔化すように叫んできた。


「ちょ、ちょっと!?今ってそういう話してられないんでしょ!今はどういう状況でこうなってるかは知らないけどそういう話はまた後にすべきでしょ!?」

「あ、なんかごめん」


そんな話をしていると、外から馬の蹄の音が響いてきた。少しして誰かが玄関のベルを鳴らした。きっとビリオンが呼んだ父上とやらだろう。とりあえず、セラを殺させはしない。


「はい。ビリオンとセラのお父様ですね」

「客人扱いの接待などは要らない。今すぐ2人を引き渡してくれ」

「それで、山に捨てたセラに今更何の用があるんですか?殺したり何かの生贄にするつもりで取り返しに来たのであれば引き渡すことはしません」

「おっと、そんな人聞きの悪いことを言われては困る。俺はただ、純粋に娘としてセラを取り返しに来ただけだ」

「なら、約束してください。二度とセラを虐げないことを」

「さすが勇者の息子。怖いもの無しは親譲りか?私に命令しようなどとはいい度胸だ」

「セラは俺たちの家族も同然だ。山に捨てるようなことをする奴に家族を名乗る必要はない。俺が言いたいことはただそれだけだ」

「そうか。しかし、お前はバカだな。お前が気にしていないうちに2人は馬車の中。さて、取り返せるのなら取り返してみなさい」

「その挑戦状、受け取った。必ずお前の野望は阻止する」



俺は一旦作戦を練る為に書斎で1人になっていた。すると、急に強い風が窓から吹き込んできてきてカーテンが勢いよくなびいた。

ただの風かと思ったが、後ろを振り向くとそこには如何にも修行僧のような、山伏のような恰好をした美男が立っていた。


「お、お前は誰だ!?」

「おっと、驚かせてしまったようですまない。我は烏天狗、徳蔵天狗とくらてんぐとでも名乗るべきか」

「て、天狗!?あなたも日本出身なんですか?」

「そう畏まらなくてもいいですよ。あなたも、ってことは君も転生者か。我は召喚されてこの世界に来た。まあ、気軽に“とく”とでも呼んでください。我はセラ、彼女の師なんですがこれは非常にマズいことになりそうですね」

「マズいこと?一体、何が起こるんですか?」

「彼女が山に捨てられた理由、覚えてますね?」

「人から生命力を吸うから、だったけど、それはスキルの所為だからで…」

「それはちょっと違いますね。彼女は幼くして親に捨てられてしまったがそこまではよかったはずなんです。しかし、その時に我が祓い切れなかった。」

「祓い切れなかった?何かが憑りついてるんですか?」

「憑りつかれてる、というか彼女がそれに憑りついています。不思議なことに」

「え?憑りついてる?」

「はい。彼女には“ひだる神”という疫病神が憑りついていました。しかし、何があったのか彼女はひだる神に憑りついてしまった、いわゆる主従関係が逆転してしまったらしく…。彼女のスキル【インヘル・バイタリティ】はもともと“ひだる神”のものだったのを憑りついたことによって習得してしまったものです」

「その“ひだる神”とは?」

「あの徳川家康も遭遇したことがあるという、人間に憑りついて生命力を吸う妖怪兼疫病神です。何故こちらの世界であのようなものが生まれたかは分かりませんが、我の力では祓うことはできませんでした。というか、魔法か何かで祓えないようにされていました」

「祓えないようにされていた?それって、誰かが故意的に?」

「はい。恐らく、彼女の父親には10年も前から何かしらの野望があって今日迎えに来るに至ったものかと」

「それで、とくはセラをあの父親から取り返す為にここに来たのか?」

「はい。我も彼女には軽く千里眼を使うだけで様子が分かる、常に見守っていられる場所にいてもらいたいですから。あ、そういえばまだあなたの名前を聞いていませんでしたね」

「俺はレント・アルグリア。よろしく」

「そうか。君、どれだけ必死に懇願してもセラはあげないよ?」

「あ、俺もう恋人いるので」

「恋人?」

「ほら、後ろ後ろ」


とくが振り返ると、外からアリスがこちらを伺っていた。しかし、アリスを見た途端にとくの表情が曇った。


「なぁ、この悪魔が恋人かい?」

「悪魔?」

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