第18話

ここからどんな展開になるのかと俺が息を吞んだその時、ナツメが申し訳なさそうにレイカに申し出た。


「あの…、私、冒険譚は好きなんですけどプロローグの長いお話は苦手なんです。なので、少しスキップして魔王城に乗り込む、とかその辺りの展開まで飛ばしてもらえませんか?」

「そのつもりでしたよ。ここから先はグロテスクなシーンも多かったですし、王女様への影響を危惧しようと考えていたので。それで、魔王城に乗り込んでからどんな展開が来るとご想像になられましたか?」

「魔王城に乗り込んで、勇者様のパーティーで残りの魔王軍幹部を次々と討伐、そのまま魔王との最終決戦を…」

「ごめんなさい、魔王城に乗り込む前に幹部は全員倒してしまったので魔王との最終決戦しか残ってないんですよ」

「そ、それだったら義母様おかあさまが魔王にトドメを刺すシーンの少し前からでお願いできますか?」

「いいですよ。それでは、【スキップ】」


すると、映し出された画面に砂嵐が数秒走った後、荒廃した城で魔王とレイカが互いに魔法で攻撃し合っているシーンまでスキップされた。



「貴様ァ、人間の分際で私とここまでり合うとは…」

「所詮、あなたもかつては人間だったのでしょう。それもかなりの実力者。勇者と同等だったか、それとも勇者だったか…」

「その話をするなァ!!私は、感謝の言葉と金しか出てこない愚民どもを守りたかったワケじゃない!私はただ、愛する人を守りたかった!けれど、あの人は醜い愚民どもの裏切りによって殺されてしまった…。だから、私が行ったのは攻撃でも宣戦布告でもない、逆襲だ!」

「逆襲をしてその人が帰ってくる訳じゃなかったはず。今のあなたはまだ、私の断罪で死んだらその人に会えるかもしれない。だから、私に殺されるのです」

「うるさいうるさい!!私はもう、この世界もお前たちも不要だ!今ここで道連れにしてやる!」

「そうはさせません。もう終わりにしましょう。【セイクリッド・エスティングイッシュ・エネミー】」


その時、俺は見覚えのある光景を目にした。とある壁画に描かれていた大きく、青白くて神々しい魔法陣。そこから放たれる羽の雨。それは大昔の伝承に出てきていたものだっただろうか。


「ば、馬鹿な!?貴様ら劣等種にそれを使うことはできないはず…。貴様、まさか熾天使種か!?」

「いいえ、ただの人間です。精霊皇帝様からご加護をいただいただけですよ」

「こ、こんなはずは…」


こうして、あっけなく魔王は体の崩壊を抑え切れずに崩れ去ってしまった。


「レイカ、やっと終わったんだな。俺たちの戦いは…」

「セリオス、あなたと一緒じゃなかったらここまで来れなかったわよ。私だって死にそうになった時はいくらでもあったし、犠牲だってたくさん出しちゃったから」

「俺もあの時、お前に守ってもらわなかったら死んでた。これからは互いに守り合って生きていこうか」

「それ、どういうこと?」

「け、結婚しようってことだよ」

「いいですよ、私は別に」



「…やっぱり、こういう冒険譚って中盤を飛ばして結末だけ見ても味気ないですね。今度、本か映写機のテープにして私に納めてくださいませんか?」

「それは構わないけど…、結構ナイショにしてることとかあるから公には公開しないでもらえますか?」

「それくらいの条件ならお安い御用です!」


こうして、俺たちは家に帰ったが…。



「えっと…。これってどういうこと?」

「セラも知らない。けど、この家に来るように言われたって」


家に帰ると、そこにはセラによく似た黒髪猫耳のロリっ子がいた。いや、男の。ショタでした。


「どうも、僕はビリオン。お姉ちゃんがここの山で見当たらなくなったと父上から報告を頂いたので探しにきました。いわゆる捨て駒みたいなものです」

「え?人柱…。それってどういうことだ?」

「ああ、、この家には精霊皇帝様からご加護を受けた方がいるようですから。この家に住んでいるうちは誰も犠牲になったりしませんよ」

「ああ、お母様が精霊皇帝様から加護をもらったのは確かに事実だが…。その、捨て駒とか犠牲とか、どういうことだ?」

「実は、お姉ちゃんが捨てられた理由を父上から聞いてきたんですが、どうやら【インヘル・バイタリティ】というスキルの影響で他の人や魔物から生命力を吸ってしまうらしく…。それで、お兄さん方の母上が精霊皇帝様のご加護を受けてるんですよね?加護は血縁にも影響を及ぼすらしく、お兄さんたちの生命力は吸いません。しかし、もしもお兄さん無しでお姉ちゃんを外出させようものならたくさんの人が死んでしまいます」

「それで、セラをどうするつもりだ?」

「見つけ次第報告しろ、とのことなのでもう報告してしまいました。多分、お姉ちゃんは処刑されるでしょう。悲しいことですが、スキルは制御はできても無効化にはできないですからね」

「それなら、俺たちも連れて行ってくれないか?俺たちがいれば処刑する必要もないだろ?」

「いえ、それが父上はお姉ちゃんの死とは別のところに目的があるみたいで…」

「別の目的?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る