第16話
そこには、確かにアリスがいた。俺がもう二度と会えないかもしれないとまで思ったアリスがいた。俺はアリスの前に立った。
「レントさん、もしかしてレントさんが王都の人と結婚するっていう話だけど、王女様と結婚するの?」
「いや、俺はナツメとは結婚しない。俺はアリス、お前と結婚するんだ」
「そうやって言って、またウソなんでしょ?だって、もう王女様の名前を呼び捨てできるくらいの仲だし…」
「それでも、ナツメは俺に約束してくれた。このテニヌの勝負がつくまでにアリスが来ればアリスと結婚させてくれるって」
「レントさん、それはともかく魔物の群れを討伐しに行くよ」
そして俺たちは国の南門に向かった。そこにはたくさんの冒険者や国王直属の騎士団が群れを成していた。
「魔物まで俺たちの再開を祝福してくれるなんてありがたい話だ。さて、俺とアリスで焼き尽くすか。とは言ってもただ焼き尽くすだけじゃ物足りないけどな」
「え?それじゃあ、どうやって焼き尽くすの?」
「俺、いつかアリスとやってみたかったんだよ。【火炎のワルツ】を」
「わ、私と公衆の面前でワルツを踊ってほしいの?それに、レントくんでも私に触れたら火傷しちゃうんじゃないの?」
「問題ない、俺は既に恋の炎で火傷してるからな。それに、戦術って大義名分があるから公衆の面前も何もないんだよ」
「そ、そっか」
そして、アリスは俺の前に跪いて手をとってきた。その手には、俺だけが感じることを許された温もりがあった。
「私と、ワルツを踊っていたdy…いただけますか?」
アリスは、慣れない言い方をしたからか噛みつつもそう言ってはにかんだ。俺はアリスの手を握って答えた。
「ぜひとも、俺でよければ」
俺とアリスはワルツを踊りながら炎をまき散らして攻撃する合体魔法【火炎のワルツ】を使い、他の冒険者や騎士を魅了しながら踊り続け、気づいた時には魔物たちは焼き尽くされていた。
「レントさん、あなたは夫として妻であるこんな私を健やかなる時も病める時も生涯愛し続けることを誓いますか?」
「はい。アリス、アリスは妻として夫である俺を健やかなる時も病める時も生涯愛し続けることを誓いますか?」
「…はい」
アリスのその目には、涙が滲んでいた。涙を拭いながら微笑んだアリスと俺は、互いの顔を近づけていき…。
その時、俺たちの間にナツメが割り込んできた。
「2人とも、私とお兄様の婚約が破棄になったからといって公衆の面前でワルツを踊るだけにとどまらず誓いのキスまでしようとしないでください」
ナツメは少し怒っているようだが、俺は何があってもハーレムは嫌だぞ。…ただ、今の時点でパーティーメンバーの男が俺だけだしハーレムか。
「アリス様、嬉しいお知らせと悲しいお知らせのどちらからお聞きになりたいですか?選んでください」
「なら、いい方からで」
「なんと、正式に私とお兄様の婚約が破棄されました。これでお2人は婚約できますね」
「それで、悪い方のお知らせって?」
「なんと、お兄様のファーストキスはお姉様、というかティア様に盗られてしまいました!残念でしたね」
その時、またアリスのビンタが飛んで来るモンかと思って俺は身構えた。しかし、アリスはビンタするでもなく静かに泣き出した。
「そっか…。仕方ないよね、後から横取りしようとしたのは私の方だし。覚悟してたんだけどな、ファーストキスが私じゃないことくらい」
その後、アリスはすぐに涙を拭いて顔を上げた。
「…めそめそしてる場合じゃないよね、レントさんと結婚するんなら。早く帰って準備とかしないと」
「あの、大切なこと忘れてるかもしれないけど、俺まだ14歳じゃないから結婚できないけど」
「じゃあ、何で結婚するって話になってたの!?何、王女様は権力で戸籍でも書き換えられるの!?」
アリスは驚いたかのように、そして激昂したかのようにナツメに詰め寄った。ナツメには申し訳ない、ウチの嫁が失礼して。
「そ、それはそうとして、私はまだ肝心な話を聞いていませんでしたね。お兄様の世界の冒険譚はたくさん聞きましたけど、お兄様のお母様のお話を聞きたいです!確か、魔王を倒した勇者様なんですよね?」
「ああ、そういえばまだその話はしてなかったな。でも、俺はラストスパートの魔王を倒す辺りの部分しか教えてもらってないし…」
その時、俺の横に誰かがテレポートしてきた。俺が警戒して距離を取ると、そこにはお母様、レイカがニコニコしながらそこに佇んでいた。
「その件については私が直々にお話し致しましょうか、王女様」
「まさか、あなたは勇者レイカ様ご本人ですか!?お会いできて光栄です!レイカ様御一行の伝記は筆者によって内容が左右していたもので、いつかご本人からお聞きしたいと思っていたんですよ」
「あら、それなら直接使いをよこしてくださればいつでもよろしかったですよ。それで、どこからどこまでが聞きたいですか?やっぱり、最初から最後までですか?」
「はい!ぜひともお願いします!」
「少々長くなるとは思いますがよろしいですか?」
「はい!何十分でも何時間でも構いません」
そしてレイカは話し始めた。
「これは、もう20年近く前のお話…」
こうして、魔王を討伐した勇者の冒険譚が本人の口から話されることになった。
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