第15話

俺は固唾を飲み、薄明りが照らすナツメの顔を見た。ナツメは薄気味悪い笑いを浮かべながら俺をベッドに誘い込んできた。


「さて、これからどうしましょうか。やりたいことはいっぱいありますが今夜のうちに済ませないといけませんし」

「ダメだ、ダメだぞ。まだ入籍したわけでもなければ入籍の前に契約が無しになるかもしれないんだから間違いは犯しちゃダメだ…」

「な、何を勘違いしてるんですか!?そういうつもりじゃなかったんですけど…。もしかして?私はどちらでもいいですよ」

「…それで、俺と何をしたいんだ?あんまり無理な要求はしてくれるなよ」

「そ、その、私はお兄様の前世の世界にあった冒険譚を聞かせていただきたいのですが、いいですか?」

「それくらいならお安い御用だ。俺にもお気に入りのヤツは幾つかあったからな。そうだな、まずは…」


そして俺は何作品かのラノベや漫画、アニメを簡潔にまとめて話した。その間のナツメは期待と興奮で輝いているように見えた。

ああ、もしも俺が地球のものをこっちの世界に持って来れたなら現品をあげたい。セリフとか出来事とか忘れた所為で所々誤魔化したことが申し訳ない、正直。


「まさか、お兄様の元居た世界では一般の方々が冒険譚を紡いでいるとは…。想像すらしませんでした」

「まあ、意外だよな。俺も少しだけやってみたことはあるんだがすぐに挫折した。俺さ、自分の苦手分野はどうしても三日坊主になりがちで」

「ミッカボウズ?お兄様の世界の例え言葉ですか?」

「ああ、うん。三日坊主っていうのは3日も持たずに何かを辞めちまうことを言うんだ。俺の世界には、というか俺のいた国日本ではそういう言葉がたくさんあったんだ」

「へぇ、面白そうですね。ぜひ私にも教えてくださいませんか?」

「いいけど、こんな時間まで起きてて大丈夫か?明日は俺をかけてテニヌだとかをやるんだろ?寝不足で負けても知らないぞ」

「心配してくださるんですね。お兄様は、私かお姉様方のどちらに勝ってもらいたいですか?そして、どちらのお婿さんになりたいですか?」

「俺は家族としてならもちろん義姉様に勝ってほしいけど、本心から言わせるとナツメに勝ってもらった方がいいかな。むしろ好都合というか」

「そうですか。なら、もしも私がここでお兄様を襲ったとしても問題は一切無いという解釈でいいですね?」

「いや、そういう意味じゃないんだけど…。そうだ、明日の夜にご褒美としてとっておくのはどうだ?そうすれば、やる気が出て勝てるだろ?」

「確かにそうですね。じゃあ、とりあえずこのまま一緒に寝ましょうか」

「え?あ、うん」


そうか、今夜俺はナツメと一緒に寝るって話だったな。さて、寝てる間に夜這いとかが無ければ本望なんだが。


「あ、あの、お兄様。お兄様にくっついて寝てもよろしいですか?正直言うとまだ4月なのにこの格好は寒いですから」

「…え?それ、それがいつもの寝巻きとかじゃないの?今日だけ特別にそれなの?それってつまり…」

「はい。恥ずかしいことですがお兄様を誘惑して、襲ってもらえたらいいなと思ったので…。しかし、お兄様の愛を見くびっていました。まさか誘惑に耐えるほどアリス様を愛していらっしゃるとは思っていませんでした。しかし、未だお城に乗り込んでこないということなのでもしも明日私が勝った場合、テニヌの勝敗がつくまでにアリス様が来なければお兄様の愛も、心も、身体も、私のもの♡それでいいですね?」

「は、はい…」


頼む、アリス。せめて明日の昼までには来てくれ…。



翌朝。

如何にもテニスをする格好をした2人の少女が1人の少年をかけて謎の球技、テニヌを始めようとしていた。緊迫した雰囲気の中、審判が大声で言った。


「それでは、試合開始!!」


するといきなり、ラケットと球に雷魔法を込めたティアが球をナツメに向かって打った。それをナツメは風魔法を込めて打ち返し…。

そんな状態が何分続いただろう。ティアとナツメは互いに疲れ切って勝負の継続が困難になっていた。


「あ、あなた、なかなかやるじゃない…。さすが国王の娘ね」

「あなたこそ、お兄様のお姉様というだけあって他の一般人よりも強いですね。本気の私とここまで互角にやり合えたのはあなたが初めてです」


この勝負、結局どうなるんだろう。それより、早くアリスには来てもらわないと困るのに…。書き置きとかする暇さえなかったし、連絡手段はないし…。

その時、耳をつんざくようなブザーが鳴り響いた。


『緊急、緊急!!数種類の魔物の群れが王都に高速で接近中。戦える者は直ちに王都南門へ集まってください』


おっと。ここは行くしかないか。でも、ティアとナツメは疲れ切ってそんな場合じゃなかった。それでも、2人は諦めようとはしていなかった。


「テニヌの続きは魔物の討伐が終わってからにしましょう」

「はい。その時こそは必ず勝たせていただきますよ、お姉様」

「待て!?2人とも魔力と体力をかなり消費してるはずだから休んでろ。魔力が切れた状態で無理やり魔法使うと生命力が削れるぞ」

「でも、私はレントくんを守りたい。何かあってからじゃ遅いからね」

「私も、旦那様になる前に死なれては悲しいですから」

「2人とも自分のこと言えない状態だろ?いいから、休んでろ」


その時、俺は夢を見た。いや、これは現実か


「レントさん、女の子たちに心配されてるようじゃダメじゃないの。ほら、行くよ」


そこには、紛れもなく本物のアリスがいた。

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