第14話

俺は前世や今世、そして愛梨沙やアリスのことについて夢中で話し続けた。


「これが、まさしく運命というものではないでしょうか。もしかすると、アリス様は愛梨沙様が転生した同一人物の可能性もありますよ」


確か、俺をレンさんと呼んだ少女が俺の記憶を消すことを創造神様に辞めさせて、その少女自体は火炎精霊ボーマに転生することを望んだんだっけ?それって、かつての愛梨沙の記憶がアリスには残ってないけど、俺に【炎王】が付与されることを知らずに俺と永久に別れようとしたのか。


「それはそうだが、俺の好きな人を知ってどうしたかったんだ?俺がもしナツメと結婚しなかったら国家反逆罪レベルの大罪になるから結婚は免れられないだろ」

「いえ、もしもレントさんを心から愛しようと思ってる人が城内に乗り込んできたりすれば渡さないでもないんですけどね。私、正直言うと他のお金や権力目当てで求婚してくる野蛮な貴族の息子と結婚したくなかったことも一理ありますからね」

「一理あるって…。それ以外に何か理由があるのか?恥ずかしいならいいけど、一応教えてくれないか?」

「はい。わ、私…。もっとお兄様のお話を聞きたいのです。結婚せずとも聞くことはできますが、常に聞いていたいのです。もしもお兄様があの物語のあった世界からの転生者でしたら尚更のことです」


ナツメの言っていた物語には心当たりがある。日本のとあるラノベだ。もしもナツメにあの物語を教えた人が俺と同じ世界の出身者なら、ナツメが求めているのは恐らく、いや、間違いなくラノベだろう。

その時だった。何者かが中庭に走ってきた。


「貴様、何者だ?部外者の立ち入りは切り捨てに処すぞ」


モノカの脅しにも一切動じず、その目は俺のことをただひたすらに見つめていた。別の部屋に招待されたはずのティアが我慢しきれずに駆け付けてきたのだ。


「王女様、不躾ながら話は全て盗聴させていただきました。私はレントくんのことを心から愛しています。義理の弟としても、1人の男としても。無条件でとは言いません。しかし、どうかレントくんを引き渡してもらいたい所存です」

「無条件で、とは言わないんですね。そこまでの信念を持ってしてならよろしいでしょう。明日、敷地内のテニスコートにて、テニヌを行いましょう」

「…テ、テニヌ?テニスじゃなくてですか?」

「はい。テニヌというのは、球を打ち返す時にその球に魔法を込めて相手を狙うだけの、テニスとはまた違うものです。ラケットが折れるか、戦闘不能になるかのどちらかの条件で敗北になります。普段は王族の娯楽として楽しむ程度なので、本気でやらせていただきます。勝負は1回っきりですが、それでもいいですか?」

「はい!よろしくお願いします」


こうして、俺を賭けて謎のテニヌという競技が行われることになった。


「あ、ですが今夜くらいはお兄様と寝させてもらってもいいでしょうか?もしも私が勝てば旦那様になるわけですし」

「まさか、テニヌをやってくれる代わりの条件にしろってこと!?変なことしたら王族だろうと許さないからね!」

「あ、そもそも交換条件にするという手段を思いついてすらいませんでした。自ら交換条件を出してくださり、ありがとうございます」

「そんな~!?」


こうして、俺は1晩だけ王女の手にほだされることとなった。



夕食、風呂を済ませ、だいたい今は8時前後。そろそろナツメが帰ってくる時間のはずだ。ナツメの部屋で待機していた俺は暇だったが、「部屋から出ないでください」なんて命令が出ていたから散歩にも行けなかった。かといって、見張りが3人居るから部屋を漁るわけにもいかなかった。べ、別に変なことしようとしてたとか、そんなつもりじゃないけど。

しばらくすると、ナツメと数名の従者が部屋に帰ってきた。


「お待たせしました。そ、その、どうですか」


帰ってきたナツメは風呂に行く前と髪型も少し変え、どこかオトナっぽい雰囲気を醸し出していた。実年齢17歳だから十分オトナっぽくてもおかしくはないのだが。


「ごめんなさい、待たせてしまいましたね。モノカ、今宵、あなたも含めて従者全員をこの部屋への立ち入りを禁止します」

「しかし、もしものことがあった場合、国王陛下に合わせる顔がありませぬ」

「そこは私が強制的に追い出したことにしてくれればいいの。それに、もしも私が死ぬことになったらお兄様も一緒です」

「レント様がナツメ様を殺すようなことがあったらどうなさるつもりですか?もしそのようなことがあれば我々も無論処刑ですし、もしも死罪とならずとも我々も死にます。それでもですか。本当に、後悔しませんか?」

「お兄様を疑うことも禁止したはずですが。ほら、皆早々に立ち去りなさい」


ナツメは王女らしい威厳を放ちながら従者一同にそう言った。従者一同は怖気づいたように速足に部屋を立ち去っていった。


「さて、楽しい夜になりそうですね。お兄様♡」


俺は、もしも襲われることがあっても絶対に抵抗してみせる。そう誓ったのだった。

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