第11話
次の日、俺の体調不良は治ったが、雨は降り続いていた。
きっと今日、アリスは来ないだろう。俺は【炎王】について調べる為にセリオスの書斎に来ていた。博識なセリオスに俺が本を読んでる時に出てきた分からないことを訊いて辞書を引くのを怠けようと思っていた時に限ってセリオスはいなかった。
「お父様…。まぁ、勝手に入っても散らかしたりしなけりゃ特に問題無いか」
俺が書斎に入ると、先客がいた。セラがソファーの上で本を読みかけのまま寝たらしく、とある本のとあるページが開かれていた。
そこには
火炎精霊は雨に10分降られるだけでも体が弱ってしまい、1時間近く降られると命に関わる、ということだ。そういえば、火炎精霊は人間とかに触れると火傷とかのリスクがあるのに、食べ物を食べることは普通にできたりするな…。思い返すと、まだまだ調べるべきことはたくさんある。せっかく外出できないんだし、今日を利用して色々調べるか。
そう思った時、玄関のベルが鳴った。こんな雨の日に、一体誰が?
そこには、あろうことかアリスが立っていた。長い時間雨に当たっていたからなのか、それとも他の理由なのかは分からないけど、彼女はとても激しく息が上がっていた。
「アリス、雨は火炎精霊にとって命取りになるんじゃないのか!?と、とりあえず、雨の当たらないところへ…」
「ごめん、レントさん。どうしても、見せたいものがあって…。今日じゃないとどうしてもダメだったからつい」
「それはともかく、屋根の下に入ってくれ」
「私が迷惑になったりしてない?最近、よく話してくれるし。それに、体調、悪いんでしょ?お見舞いに来ようと思ってたんだけど…」
「何で、俺たちのパーティーに入りたがらないのか、明確な答えがほしい。どうしても、知りたいんだ。俺にそうやって積極的に関わってくるんなら、パーティーに入ればいいと思うんだけど」
「この前も言ったじゃん。私はレントさんとはこれくらいの距離感で十分。これで幸せなの。どうしても、手に入っちゃうと幸せに思えなくなるんじゃないか、って思うと…」
「え?これくらいの距離で、って、この前のは物理的な話だったんじゃないのか?俺、何かやらかしたか?」
「いや、その…、レ、レントさんは、わ、私の心を盗みました…。たぶん、それがやらかしたことだと思います…」
「え?何か言ったか?」
「え!?あ、その…。や、やっぱり何も言ってないよ、本当に、本っ当に!!私はレントさんが私の心を盗んだことがやらかしたことだなんて誰も一言も言ってないからね!?私は、決して遠回しに告白しようだなんてしてないし、しなかったからね!?」
俺は、頭の中が祝福の光によるものか、突然の告白に脳がエラーを起こしているからなのか分からないけど頭が真っ白になった。
アリスが墓穴を掘って石油を当てたことは理解できた。でも、いまいち理解が追い付かない。俺の顔は、きっと脳のサーバーエラーの熱で真っ赤になっていることも想像に容易い。
でも、俺も1歩踏み出すべきだってことだけはよく分かった。
「…俺、アリスのことが好きだ。やっぱり」
「……ふぁ?えっと、それってつまりどういうことかな?私、ちょっと今幸福感と羞恥心しか心になくて理解できない、かも…」
彼女は恥ずかしさからか、嬉しさからか。その目から流れた涙は蒸発することなく頬を伝って、零れ落ちた。その、微笑んでいるとも悲しみに顔を歪ませているともとれるその泣き顔も、愛梨沙に似ていた。やっぱり、何かの運命だったのかもしれない。
「私が今日、お見舞いに見せたかったものなんだけど、見る?」
彼女はそう言って手の中にある一輪の紅く燃えるような花を見せてくれた。
「これはね、私たちの
そう言ってはにかんだ彼女もまた、愛梨沙に似ていた。ああ、まだ愛梨沙のことを諦めきれない。それでも、俺は夢の中の愛梨沙と約束した。アリスを幸せにするって。
しかし、その幸せも長くは続かなかった。ホント何なんだよ!!
ティアが鬼気迫る表情で走ってきた。
「お前~!!私のレントくんから離れなさい!」
「あれ?君ってこの前の…。それと、“私の”って、どういうこと?」
やばい。これは非常にヤバい。これこそが、あの“修羅場”なのだ。
「私は昔っからレントくんの面倒を誰よりも見てきたの!それに、どうせレントくんは王都の女の子と結婚することになってるはずだから、それまではせめて私のレントくんを私のレントくんのままでいさせて!」
え?俺が王都の女の子と結婚する?何それ、初めて聞いた。小生、そのようなことに身に覚えなど全くございませぬ。って、冗談言ってる場合じゃない!アリスをなだめないと…。その時、俺の頬に熱いとも痛いとも感じられる痛烈な一撃が…。
「レントさんの、浮気者ォォォォォ!!!」
来たよ。王道(?)イベント『ヒロインの主人公ビンタ』…。喜んでる場合じゃない!
「レントさんのバカ…」
そう言い残して、アリスは森の方へ走って行ってしまった。まさか、俺が火傷を、それも頬にする日が来るなんて…。それより、
「で、俺が王都の少女と結婚するって一体何の話?」
「…あ」
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