第10話
「これは、たぶん7年前くらいの話…。私は煉さんに救われた。なのに、煉さんはこの世にいなかった。私は何ともいえないくらい悲しかった。お父さんは、あの家の中でどんな事情があったかも知らずに怒った。“なんで、あんなにいい子だったのに、煉君を連れ出さなかったんだ!お前は親不孝だ!彼はお前の旦那に相応しかったんだ…。お前には、幸せになってほしかったんだが…”って。
私が傷ついてることも分かってるはずなのに、私に幸せになってほしいとか言っておきながら、怒った。だから、私は考えた末に私が幸せになれそうな最善策を選んだの。また、煉さんに会えることを信じてね。私は死んだの。煉さんのいない世界に私は要らない。煉さんは、私の人生を救ったはずなのに、おかしいよね。煉さんは、私の人生を奪いもしたんだよ。でも、私はそれで後悔してないよ。私は、煉さんを忘れたりしないから」
俺は、夢だと分かっていてもその愛梨沙の言うことに混乱した。愛梨沙が死んだ。そんなはずはない。これは夢、これは夢だと自分に言い聞かせても、この心臓がバクバクしている。俺が愛梨沙の人生を奪った。俺は愛梨沙の幸せを願った。その結果が、奪うことに繋がった。きっとこれは体調不良故の悪夢だ。きっとそのはずだ…。夢の中で泣いているはずなのに、現実でも泣いているような気がした。
「それで、愛梨沙は俺が俺の何に気づけていないと思うんだ?」
「それえはね、…んー、でも、やっぱり自分で考えてよ。私が教えるよりも、自分で気づいた方が飲み込みやすいだろうし」
そう言って、愛梨沙は挑発的な笑みを浮かべた。俺はその表情が大好きだった。
きっと、これは俺の知らない俺による俺の為の俺の挑戦状。これが分からなければ、きっと永遠にこの悪夢から覚めることはない。
「俺、きっとアリスがところどころ愛梨沙に似てることに気づいてるんだ」
「うーん、ちょっと違うね。煉さん、もう私はいないんだからさ。正直になっちゃいなよ。どうしても、愛情が足りてないでしょ」
「俺、俺は…、愛梨沙の代わりに、アリスを好きに…。いや、そんなことは…」
「もう認めてよ。私はいないんだよ。どれだけ現実から目を背けても、どこの次元を探しても、どんな手を尽くしても私に会うことは二度と叶わないんだよ!」
「俺…、俺は愛梨沙が好きなんだ、大好きで大好きで仕方ないくらいなんだ!なのに…。俺はどうしても諦めたくないし、アリスのことが好きだってことも認めたくなんかない!」
「じゃあ、なんで煉さんはアリスのことを求めてるの?」
「そ、それは…。アリスにはきっと居場所がなかったんだ。だから、俺は彼女を助けたい。ただ、それだけだ」
「煉さんはまず、自分のおかげで救われたアリスをパーティーに入れようとした。でも、彼女が逃げたことを気にした煉さんは無意識のうちに彼女を探すようになった。
「…俺が愛梨沙以外を好きになるなんて、そんなことはあり得ない」
「彼女を私、愛梨沙の代わりに、愛梨沙を幸せにできなかった分まで幸せにしたい。そうでしょ?それとも、私の言ってることがウソだと思う?」
「いや、多分、ウソじゃないんだ…。俺は、愛梨沙を裏切ったんだ…」
俺は夢の中で、初めて声を上げて泣いた。俺は、情けない浮気者だ。
その時、さっきまで膝枕していた俺を起こし、その夢の愛梨沙は俺を抱きしめた。
「大丈夫。それじゃあ、私からお願いするね。私の代わりになんて言い方したら怒ると思うけど、あの
「愛梨沙、だったら俺に決心がつくように応援してくれないか?」
「応援って…、どうすればいいの?」
「お、俺が喜びそうなこと考えてしてくれりゃいいんだよ!なぁ、頼むよ」
「…膝枕はしたし、抱きつくだけじゃ満足しないだろうし、えっちなことをしないって考えると…。なるほど、いいよ」
そう言って、愛梨沙は俺にキスをした。それは、数秒のことだったか、数分のことだったか。その感覚は、夢さとは思えなかった。
「ありがとう。俺、頑張るよ。愛梨沙の代わりにアリスを幸せにするよ」
愛梨沙は、ただただ頷いた。その時、俺の意識は薄れだした。
*
目が覚めると、俺は泣いていた。汗の所為か全身がびしょ濡れになっていた。
「レントくん、大丈夫だった?」
「レント、うなされてた」
2人は、俺が悪夢にうなされっていることに気づいて傍にいてくれたらしい。もう、時計は夕方の3時を回っていたけど、雨は降り続いていた。
「2人とも、ありがとう。俺はやるべきことが分かったよ」
「え?それ、どういうこと?」
「もう、俺にはこれでしか償うことができないんだ…」
俺の決心はあの口づけで固まった。今度アリスに逢ったら、ちゃんと言おう。好きだって。
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