第12話

俺は、とあることを尋問する為にティアを書斎で椅子に縛り付けていた。


「それで、俺が王都の少女と結婚するって何の話?俺、全く身に覚えがないんだけど?俺の知らないところで一体どんな陰謀論が働いているんだい?」


俺は、思いっきり重圧をかけた。無理やりニコニコしていたけど、メンタル的にも肉体的にも辛い。アリスから浮気者だって勘違いされたこともだけど、俺はこの肉体に生まれて初めて火傷をした。しかも頬に。だから、笑ったままなのがキツイ。


「ワ、ワタシハナニモシリマセンヨ。レントクンガオウトノショウジョトケッコンスルッテナンノハナシデスカ?ソ、ソンナモノワタシハダレガナントイオウトミトメマセンヨ」


圧倒的な棒読みを披露して遣わしたティアは、それはそれは一目見ただけで分かるくらいに焦りが出ていた。


「それで誤魔化せるなんて思ってるんですか、義姉様。何か隠し事があることは癖の喋り方とか顔でバレバレですよ」

「仕方ないな、レントくんは。よし、義父様には悪いけど全部正直に話すとするよ。これは1、2年くらい前の話なんだけど、義父様のところに王都からのお客さんが来て、レントくんは学校行ってたけど私はもう卒業してたからその話を聞いたんだけど…。あ、あと、1つ訂正させてもらっていい?王都の女の子って言ったけど、本当は王女様で、ただの女の子じゃないんだよ…。国王様は勇者の息子、それも【炎王】を持つ者として活躍してるレントくんを是非とも娘の婿として迎え入れたいって言ってたんだよ。レントくんの誕生日って明後日の4月20日で、その日に13歳になるでしょ?その日に催眠してから強制連行されて、結婚させられるらしいの。私、昔からレントくんのこと見てきたから家族としてもだけど、1人の男の子としても好きだったから、顔も知らない王女様になんか盗られたくないのに、王族命令だから逆らえないみたいで…」

「それ、どうにかできないのか?もともと知ってたんならお父様をなんとか説得して取り消しにしてもらえばよかったんじゃ…」

「やったけどできなかったの!それに、レントくんが私じゃない人を好きになっちゃったんだから、正直言うと今はどうでもいい」

「何でどうでもいいとか言うんだよ!?俺のことが好きなんだろ?なら、最後まで抗えばいいんじゃないのか?」

「私だって、抗いたい。もう抗えないことくらい、私も理解してるつもりだけど…。せめてこれくらいは許してほしいな」


そう言って、ティアは俺の唇にキスをしてきた。10秒経った。それでも、ティアは離れようとしない。1分経った。離れるどころか俺を力いっぱい抱きしめたまま、キスを続けていた。まさかファーストキスをティアに盗られるとはな。俺は抵抗するでもなく、ただそれを受け入れ続けた。

ティアは今、きっとアリスにビンタされた俺よりも辛い。愛する義弟が婿に行く日がすぐそこまで迫っているその時に限って彼に好きな人がいることを知ってしまった。

俺にできるティアへの償いは、きっとこれくらいしかできない。俺のファーストキスを奪ったことで少しは優越感に浸ってほしい。俺はそう思った。

時間を数えるのを辞め、されるがままにされていたその時、書斎にセリオスが入ってきた。そして、俺たちのしていることに気づくと顔を真っ青に染めて言った。


「お、おい、ティア…。の、納品はもうすぐそこなんだ…。それなのに、何てことしてくれたんだ!!これでは、王女様に申し訳が立たないぞ…」

「義父様、一言よろしいですか?義父様は私がレントくんを好きだってことはご存じだったはずです。それなのに、何故あのような契約をしてしまったのですか!?」

「お前は弟の息子だ。俺は、元勇者としての名誉を保ち続ける為、そして、一族を守る為にはこれしかなかったんだ。許してくれ…」

「それと、私も受け入れ難い事実なんですが、レントくんには好きな人ができました。それも、相手の方と両想いです。せめて、レントくん本人の意思を尊重した上でもう一度考え直すべきではないでしょうか」

「レントに好きな人ができた、か…。しかし、こちらはそれよりも前、1年以上前から契約が完了している。今更変更するわけにもいかない。こうなったら、1日だろうが2日だろうが早いに越したことはない。お前たち、行くぞ。【アブソリュート・テレポート】!」


こうして、俺たちは強制的に王都へ連れて行かれることになってしまった…。



光が収まり俺が目を開けると、そこは王都とつくだけあって随分と発展していた。大きな市場や娯楽施設のような場所もあり、完全に俺の知らない世界がそこには広がっていた。


「おい、こっちだ。俺は【アブソリュート・テレポート】を使ったら3日は使えない。要するに今すぐ帰る手段は無いぞ」


俺たちは城に向かった。門番は明後日俺たちが来ることを把握していたらしく、予定を前倒しされたことで少しセリオスと揉めながらもなんとか入城できた。

すると、王様のいる大きな宮殿のある前の廊下で、誰かが急に抱き着いてきた。突然のことに対応しきれなかった俺は押し倒され、目を開けると金髪碧眼の美少女がそこにはいた。


「あなたが私の婚約者ですか、お兄様」


俺は、急なお兄様呼ばわりに戸惑うしかなかった。

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