第8話
俺は1人で街にに来ていた。母レイカが体調を崩し、家事やその他諸々を俺たちで分担してやることになり、ティアとセラは屋敷で掃除や食事の準備、俺は食品や日用品の買い物に来ていた。
買い物のメモに書かれたものを全部買い、帰ろうとした時、そこにはアリスがいた。誰かを待ってるみたいだし、あのことを訊くのはまた今度にしておこう。でも、少しだけ声はかけてみるか。
「アリス、この前はありがとう。それで、今日はここに何を…」
「レントさんに用があって来たんだけど。ちょっとこっち来て」
俺は打ち解けてきた(?)影響からかアリスも俺も互いに敬語を使い合わなくなっていたことに気づいた。俺がアリスの行く方向へついて行くと、そこには1軒の喫茶店があった。
「あの、ごめんだけど今俺おつかいの途中でさ。俺の帰りが遅いと2人もお母様も心配するだろうからまた後からにしてくれない?」
「話したいことはすぐに話すから今にしてよ」
ああ、またか…。どうしても愛梨沙に重ねてしまう。愛梨沙も同じようなことを言っておきながら結局長話するなんてこともよくあった。
「あの…。俺の勘が外れなかったらだけど、たぶん長くなると思うからやっぱり荷物だけ置きに帰っても…」
「ダメ。レントさんのことだからそう言って逃げるつもりでしょ?分かってるんだから、誤魔化しても無駄だよ」
分かってるって、今の俺には逃げたいどころか色々と訊きたいことがあるんだが…。俺のことだからみたいに言うけど、一体俺にどんなイメージ持ってるんだよ。
「分かった。そこまで言うなら今にするよ」
「よかった。その、もし嫌だったら別に強制はしないんだけど、ぜひともここの喫茶店の新メニューのパフェを食べてほしいんだけど…。わ、私が奢るから食べない?」
なんだ、それくらいのことか…。とも思ったが、これを通りがかりの人が事情も知らずに見ただけだとどう見てもデートだし、もしも俺を心配して探しに来たティアとセラに見つかったら質問攻めに遭うかもしれないし…。
でも、死んで、愛梨沙とそういうことが出来なくなって7年経って、今までティアともしていないし、たまには悪くないのかとも思った。
「分かった。でも、俺に用があるってそれだけか?もっと、ほら、今話しておきたい大切なこととかってないのか?」
「話したいことは色々あるけど…。ただ、今日は本当にレントさんにそれを食べてもらいたいだけで…、あ、でも、もしレントさんに話したいことがあったら何でもどうぞ」
俺はその喫茶店に入店するとすぐにそのパフェを頼み、窓際の席についた。アリスは自分の体温で店のものが焼けることを危惧したのか入店はせず、俺の席の窓のところに来た。
「俺、【炎王】で温度調節できるから入店しても大丈夫な体温にしようか?」
「い、いや、それは申し訳ないというか、私にはこれくらいの距離感で十分というか…。と、とりあえず、もしも温度調節しても失敗してお店が燃えちゃった時に保証がとれないから私はいいよ。ここからレントさんと話すだけで」
「そ、そうか。それで、質問しても問題ないんだな?」
「はい、私の答えられることなら何でも大丈夫ですよ」
「じゃあ、まずは『何で俺たちのパーティーに入ろうとしないのか』、だな」
その質問をした途端、アリスの動きがぎこちなくなり、あからさまに焦っている感じだった。
「じゃ、じゃあ、私からレントさんに質問しますけど、あの2人とはどういう関係なの?」
「あの2人って、ティアとセラのことか。ティアは従妹兼姉で、セラは同居人兼パーティーメンバーだ」
「じゃあ、もう1つ質問します。レントさんはあの2人のどっちかと付き合っていたりするの?正直に、正直に答えて!」
「俺と2人はさっき言った関係性以外は持ってない、というか、今は誰ともお付き合いはしてない」
「じゃあ、更に質問。レントさんは付き合っていないだけで誰か異性に強い恋愛感情を持っていますか?現在進行形で」
「いや、別に」
俺が3つ目の質問に即答づると、アリスは胸を撫でおろしたように見えた。
「それと、さっき言った通り俺は【炎王】の力のおかげで温度調節ができる。なのに、なんでそんなに俺と距離をとろうとしているんだ?」
「ぎゃ、逆に訊くんですけど、レントさんは私に近くに居てほしいんですか?だから、距離をとることに疑問を持っているんですか?」
「い、いや、別にそういうことじゃないけど、ただ、俺はアリスがパーティーメンバーになりたければ何時でも歓迎する。それに、この前の
その時、誰かがまた駆けてきた。
「レントくん、おつかい中に寄り道かい?…ってそこの人、確かこの前の」
「レントと一緒に人形燃やした人だ」
どうやら、2人もアリスのことを記憶していたみたいだ。これなら、アリスが俺たちのパーティーに入るデメリットは少ないはずだが…。
「ごめんなさい、また今度にして」
そう言って、アリスはまたどこかに逃げてしまった。
「レントくん、まさかあの人とデートでもしてたの~?」
「い、いや、お、俺はただあの人に話があるって言われただけで…。あ、このパフェ食べる?」
「いいの!?ありがとう!」
*
私は物陰に隠れてレントさんの様子を見ていた。レントさんは、あの人間の少女にパフェを食べさせてあげていた。あたかもカップルであるかのように。
――レントさんのばか。うそつき。
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