第7話

俺は2人でギルドに向かっている途中、アリスを見た。彼女は、こちらに居ることが知られるのがマズかったのか、慌てた様子で物陰に隠れてしまった。


「どうしたの、レントくん」

「いや、何でもない」


ただ、気づかれていないとでも思っているのかアリスはギルドまで僕の後をつけて来た。


「さて、今日はどのクエストにする?ティアとセラのことを考えて魔法を使う系のクエストにしてみ

るか?」

「いやいや、私たちの都合にばっか合わせなくてもいいんだよ」

「そもそも、中級者向けのクエストで簡単なヤツを選ぶくらいなら、初心者向けのクエストで難しいヤツを選べばいいんじゃない?」

「確かに、それはそうかも…」


すると、セラが掲示板から1枚の紙をはがした。


「セラ、これがいいと思う」


そこには、『アリゲータの討伐(初心者・中級者向け)』と書かれていた。


「これでいいのか?アリゲータっていうと、それなりに狂暴なモンスターだぞ?」

「セラはこれでいいと思う。ティアはどう思う?」

「わ、私もこれでいいと思うよ」


そして、俺たちはその湖に向かったのだが…。


「ちょっと!?聞いてたよりも数が多いんだけど!?私たち3人だけでどうにかなるの?」

「一応、俺にやり方はある。でも、それじゃあ2人の成長の為にこれを選んだ意味がなくなっちゃうと思うんだけど…」

「わ、分かった!仕方ない、戦うしかないなら。【サンダー】!!はぁぁ!」


ティアは空中に真っ黒な雷雲を発生させ、1匹のアリゲータに向けて雷を落とした。

雷鳴を轟かせながら1本の光線がアリゲータに向かって落ち、そのアリゲータは気絶しているのか白目をむいて仰向けになっていた。


「よし。それじゃあ次はセラだな」


すると、セラは魔法を使おうともせずにアリゲータの方へ行くと、1匹の尻尾を掴んでもう1匹に叩きつけた。


「…え?こ、これ、どういう状況?」

「セラ、コイツとは戦い慣れてるから」

「もしかして、森に住んでた頃に何回も戦ったのか?」

「だからこのクエストにした」

「そういうことか…。それなら、もうセラ1人でやってみて。俺たちも少しくらい協力するから」


こうして、結局数十匹もいたアリゲータをセラは1人であっという間に蹴散らしてしまった。



「えっと…。この数に間違いはないと思いますが、アリゲータ53匹の買い取り価格と報酬を合わせて、7万8000円になりますね」


昨日よりも多くのお金を手に入れて、俺たちは帰路についた。


「まさか、セラのステータスがあそこまで高いなんて…」

「魔力、体術、魔法、物理耐性、魔法耐性、素早さ、体力値…。剣術以外が平均よりもそれなりに高いなんてね」

「それで、明日はどういうクエスト受けるつもりだ?」

「そうだな…。今のところ2組が失敗したって言われてる、『樹脂人形セルロイドの討伐』にしようかな」

「樹脂人形は厄介だぞ。生半可な水魔法じゃ鎮火しない」

「大丈夫だよ。私、水魔法が1番得意だから」


ティアはそう言って笑った。でも、俺はその自信が命取りになるんじゃないかと不安になった。



「これが、樹脂人形…」


翌日、俺たちは本当に樹脂人形の討伐クエストに出向いた。

樹脂人形は全身が樹脂でできていて、普段から体の一部が燃えていて山火事などを

引き起こすモンスターというよりはアンデッドのヤツ。

ティアがソイツらの前に立ちふさがると、樹脂人形たちはその方にゆっくりと歩き始めた。


「私の水魔法で鎮火して!【スプラッシュ】!」



しかし、炎は100度以上で燃えているのか水は蒸発してしまった。


「え!?何で効かないの!?こんなはずじゃ…」


樹脂人形がティアに掴みかかろうとした時、俺は咄嗟にティアを庇って樹脂人形と取っ組み合いをしていた。


「レントくん、大丈夫なの?」

「俺の耐熱にかかれば、これくらい熱くも何ともない。それにしても、水が効かないとなると、倒す方法は1つしかない」

「それって?」

「燃え尽きるまで燃やし尽くすしかないんだよ」


すぐに俺は行動に出た。【炎王】の能力で樹脂人形の炎に干渉し、温度を上げて激しく燃やした。


「クソ、このままだと1体燃やすのにかなり時間が…」


その時、急に炎が青白くなり、炎は更に激しさを増して人形を燃やし尽くし、気づいた時には人形は消え去っていった。


「何やってるの、レントさん」


そこには、アリスがいた。


「アリス、どうしてここに?」

「レ、レントさんが心配だったからついて来たの!ほら、2人で協力してさっさと終わらせよっか。」


それから俺はアリスと1体ずつを集中的に燃やした。結果、およそ数キロに及ぶ重量の樹脂をドロップさせることができた。


「ありがとう、アリス。本当に助かった」

「私は自己満足で手伝っただけで…」

「やっぱり、俺たちのパーティーに…ってあれ?」


時すでに遅し。アリスは姿を消していた。


「さっきのって、昨日の人だよね。なんで私たちのパーティーに入りたがらないんだろうね」

「さぁ…」


俺は、今度アリスに会ったら何で俺たちパーティーに入ろうとしないのか、すぐに逃げてしまったのかを聞こうと思った。

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