第6話

俺は、さっきまでのアリスとのやり取りを思い出していた。これは、俺が前世に愛梨沙と初めて出会った中学2年の夏のことによく似ていた。



前世の中学2年俺は6月の末、まだ梅雨の続く頃に親父の仕事の都合で東京の■■区に引っ越した。

引っ越しの手伝いが終わり、これからこの街に何があるのかを探索しに行こうとしたそのタイミングで雨が

降り始めてしまい、両親も買い物に行って暇だった俺は新しいリビングで1人くつろいでいた。

その時、雨だというのに誰かが訪ねてきてインターホンが鳴った。


「すいません、どなたですか」

「ちょっと、あなたに会いに…」


少女の声だった。俺はこの街に来てまだ数時間しか経っていない。なのに、俺に用事があるというのはおかしい。


「あの、人違いではないですか?俺、まだ今日この街に来たばかりで…」

「やっぱり、今日引っ越してきた人ですか…。ちょっと、話したいことがあります」

「いいですけど、雨が降ってるので家の中で話しませんか?今、ちょうど両親もいないので」

「そ、それは申し訳ないです。外で話させてください」

「そ、そうか。じゃあ、ちょっと待っててください」


俺が外に出ると、少女が家の中で話すのは申し訳ないと言っていたのがただの遠慮でなかったことを知った。少女は長い間雨にでも打たれたのか、全身を濡らし、体を小刻みに震わせていた。


「お、おい。そんな状態じゃ風邪ひくぞ。やっぱっり家の中で話そう。風呂も貸すし服も貸したり乾かしたりしてやるから」

「そんな親切じゃなくていいです。私は自分の意志でここに来たし、私のワガママで迷惑なんか掛けられないですよ」

「でも、それでお前が体調崩したら俺の所為みたいだろ。それに、俺が今日ここに引っ越してきたことを知ってるのにわざわざここに来るってことは何かしら理由があるってことだろ?遠慮なんかいいから、とりあえず家に上がってくれ」

「で、では、お風呂借りますね。の、覗いたりしないでくださいね!?」

「げ、玄関先でそんなこと大声で言うなよ。誤解されるだろ!」

「…ふふっ。それでは、失礼します」


その少女は俺が提案した通り風呂場でシャワーを浴び、俺はサイズがぶかぶかだった服を貸した。


「ごめんなさい、急に押し掛けたのにここまでしてもらって」

「俺も両親がいたらここまでしなかったと思うけどな。それで、今日は一体どういう目的で来たんだ?」

「はい…。あ、まだ名乗っていませんでしたね。私は米倉愛梨沙、14歳。中2です。私、実は隣の家に住んでます」

「俺は下田煉。同い年としてよろしく」

「え!?それってつまり、学校も一緒ってことですね。じゃあ、これからは煉さん、って呼んでもいいですか?」

「いいけど。それで、今日は俺にどんな用事があってここに来たんだ?ただ会いに来ただけじゃないよな?」

「はい。実は、今月の6日にあった中間テストで400点っを下回ってお父さんに怒られたの。それで、向こうが勝手に期待してただけなのに期待を裏切られたとか言って私を責め立ててきたから、つい家出しちゃって…。それであなたを見たんですけど、なんか相談できそうな人だな、って思ったので勢いで…」

「そうか。もしかして、いつもの定期テストでは400点越えの点数が出てるのか?」

「はい。私はいい大学に進みたいと思っているので」

「意外なんて思うかもしれないが、俺も定期テストは450くらい取れるんだ。だから、もしも勉強教えて欲しいって言うんなら、教えるぞ」

「いいんですか!?ありがとうございます、まだ出会ったばかりなのにここまで相談にも付き合ってもらって」

「いいんだよ。俺もちょうど暇だったからな。それに、親から勝手に期待されてるんなら家や学校以外にも居場所は必要だろ?」

「煉さん…。私、やっぱり煉さんと友達になりたいです」

「そうか。俺もこの街に来てすぐで分からないこともあるし、学校のことについてもまだあんまり知らないから、教えてくれよ」

「はい!任せてください!」



それから、一緒に居る時間が段々増えて、段々距離が縮まって、気づいた時には互いに好きになっていた。愛梨沙は何があったのか目標にしていた高校には進学せず、俺と同じ高校に進学した。

あの頃は毎日幸せだった。もう時間にして7年も前の話になる。


「レントくん、どうしたの?さっきからボーっとしてるけど」

「ちょっと考え事してただけだ」

「これ、私たち2人からのサプライズ。今日、私たちを助けてくれたお礼」

「わ、わざわざ刀じゃなくてもよかったのに…」

「だって、レントくんはそっちの方がいいって言うかな、って思ったから」

「そっか。ありがとう。それで、明日からも中級者向けのクエスト受けるの?」

「うん。私も強くなりたいからね。セラちゃんも同じだってさ」

「なら、明日からは俺のサポートだけじゃなくて自分から敵に仕掛けることもしてみよう」

「「うん」」


俺は、もらった刀を握りしめながら誓った。いずれ、あの少女アリスをパーティーメンバーにして、4人で一緒に冒険しよう、と。

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