第5話

悪いけどレントくんには先に帰ってもらっちゃった。サプライズがしたくて、セラちゃんと話し合ったけど、ちゃんと作れるかな…。


「セラちゃんはこのサプライズについてどう思う?」

「セラたちは結局何もできなかった。けど、中級者向けのクエストだって分かってて受けたのはティアだけの責任じゃない。だから、レントの刀が折れちゃったのはセラたち2人の責任。私も、助けてもらった恩返しがしたい」

「そういえばだけど、レントくんの剣って不思議な形してたよね。確か、カタナ、って言ってたっけ?」

「レントはきっとあれがいいって言う」

「だよね。じゃあ、2人でローン組んで特注しよっか」

「…ローン?」


こうして、私とセラちゃんは2人でローンを組んでカタナを造ってもらうことになった。今日中にはプレゼントしたいし、できるまでは帰らないでおこう。



俺が2人と離れた後から、俺は誰かにずっと見られているような気がする。どうしても悪寒が止まず、俺は駆け込むようにして家に帰った。

ストーカーを振り切った達成感から胸をなで下ろしていると、玄関のベルを鳴らす音が聞こえた。

仕方ない、もしも見られていると思ったのが勘違いじゃなくて、訪ねてきたのがさっきまでのストーカーだったら強制的にでも帰ってもらおう。


「すみません、どなたですか?」

「私、火炎精霊ボーマだからこのドアを開けていただかないと…」


火炎精霊!?何でここに?まさか、俺が里の郊外で激しく戦ったから苦情でも言いにきたのだろうか?


「どのようなご用件で?」

「私はあなたに会う為に来ました。もしよろしければ、外に出てくださいませんか?」


もしかしたら、俺が火炎魔法を使ってるのを見て【炎王】か何かしらの特殊能力を持っていると考えて俺に接触を図ろうと?

俺はとりあえず会ってみることにした。ドアを開けて外に出るとそこには髪が青白く揺らめいている少女がいた。


「すみません。それで、僕に何の用が?」

「はい。あ、ごめんなさい。まだ名乗っていませんでした。私はアリス・フィーレ、16歳。ちょっと変わった火炎精霊ですが、よろしくお願いします」

「は、はい。俺はレント・アルグリア。奇遇な話ですが、俺も少し…、いや、だいぶ変わった人間なんですよ」

「はい?レントさんに変わったところは特に見られませんけど。私のように見た目が変わっているというわけじゃないんですね」

「俺は、人間には発動しないって言われてるスキル【炎王】が発動しているんですよ」

「そ、そうなんですか。私はこの通り、髪と体の一部が青白いんです。お父さん曰く、私の炎は種族全体を見ても飛び抜けた熱さらしいです。なので、耐熱が使えるレントさん相手でも触ることは…」

「え?俺、普通に人肌の温度はわかるんですけど、熱々の調理器具とか焚き火に手を触れても何とも火傷をしないはおろかぬるいくらいにしか感じないので別に問題はないかと…」

「だ、ダメです!やっぱり、耐熱があってももし私があなたの命を奪ってしまった場合、責任が持てませんから!それと、私は火炎精霊の為に作られたものすら溶解してしまうんです。だから、もしも何かあったら…」

「もしかして、過去に何かあったんですか?」

「はい。かつて私たちの里に訪ねてきた【炎王】持ちの方を触って蒸発させてしまったんです。それからは、里の人たちからも差別的な扱いを受けるようになってしまって、逃げるように里を抜けて放浪し続けた私は、死のうかどうかを血迷ってしまったんです。

でも、そんな時にあなたは現れました。あなたが【炎王】を持っていることがこの街で広まって、それから私はあなたがいつか冒険者デビューする日を心待ちにしながら毎日ギルドに張り込んでいました。そして今日、あなたの初めてのクエストの様子を見て、私はやはり一度あなたと話してみるべきだと思ったんです。あの巧みな戦い方、破壊的な火炎魔法…。私、あなたのパーティーに入りたいです!」

「いいですよ。あなたにはきっと今まで居場所が少なかったことでしょうし…」

「それで、私ってあなたに触っても大丈夫なんですっけ?」

「それは今試せばいい」

「嫌です!私はあなたに消し炭になってほしくなんかありません!もしもあなたが消し炭になったら私も死にます」

「大丈夫。俺も消し炭にはならないし、君も死ぬ必要なんかない」

「し、信じていいんですか?本当に?」

「信じていい。俺はこの身を張ってでもあなたと共存できる人間だと証明します」

「そ、それでは…」


そこで、遠くから駆けてくる足音が聞こえてきた。


「レントくん、その人って誰ですか?」

「ああ。なんか、俺に用があるって訪ねてきたんだけど…」


その時、俺を触ろうとしていたアリスの手があと少しのところで止まった。


「どうした、アリス?」

「いや、やっぱりいいです。さっきまでの話はなかったことにしてください」


そう言って、彼女は森の中に消えていった。


「それで、あの人って?」

「実は…」



私は、レントさんが【炎王】だって分かる前から何となく気になっていた。会ったことはないはずなのに、何でか懐かしい感じがした。その理由が知りたかった。彼に触れればそれを知ることができたかもしれない。でも、それが怖かった。もしも知りたいことも知れないままでレントさんが消し炭になるなんて考えると、どうしても触れない。

もしこれが恋だったら。これは、『禁断の恋』なのかもしれない。

気づけば、私の両目からは大粒の涙が出ては目尻で蒸発していた。



レントさん…。およそ7年前の前世を思い出す。俺はもう下田煉しもだれんじゃない。なのに、最後まで聞こえていた愛梨沙の、俺を煉さんと呼ぶ声が脳内で反芻していた。

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