第5話 〜子供の画策〜

 次の日になり,あやは次の段階へと進むために悠介と出かける事にした。

 アル達には昨日盗んだ荷車の偵察をしてくる仕事を頼んだ。場所は変わったのか? もしくは見張りを付けるようになったのか? 見張りは何人なのか? という事を詳しく偵察してくるように指示した。


 「あや〜! 今日は何するんだ??」

 「ウチらはまだ子供だから,どうしてもここから先は手詰まりになる時が来る。その前に大人を一人仲間に引き入れたいと思ってる」


 「そうなの? で!? どうするの??」

 「とりあえず今日はいい大人がいないか探すわよ」


 「まあいいや。あやについて行くよ」


 あやと悠介は街のあらゆる場所を巡ったが,あやが気に入る大人には出くわしてないようだった。


 「あや〜疲れたよ! 休憩しようぜ」

 「そうね」

 あやと悠介は屋台でご飯を買い,初めてこの世界に来た時の場所が近くにあったので,ベンチに座って食事をとっている。


 するとあやは何かを見つけたかのようにじっと目線を留める。

 「悠介! あそこに座っているお兄さんに,がきんちょのフリしてぶつかってきて」

 「え〜せっかく休憩しているのに!」


 「いいから早くお願い!」

 「わかったよ仕方ないな〜」


 悠介ははしゃぎながら,走り出し,うつむき加減の男性の足に引っかかり盛大に転んだ。

 「うわ〜ん,僕の昼食がぁ〜」

 かすり傷を作り,ぐずりながら悠介は嘘泣きをしている。


 「ほら慌てて走るからそういう事になるんだよ! ごめんなさいおじさん。ウチの弟が」

 「ああ。大丈夫だよ! 坊主。昼食駄目にしちまったな。おじさんが他に何か買ってあげるよ」


 「え!? いいの!?」

 「いえいえそんな。悪いからいいですよ」

 「まあいいんだ。気にしないでくれ!」


 「おっちゃんありがとう! 僕はね串焼きがいいな!」

 「そうか! じゃあ行こうか」


 串焼きを買って,ベンチに戻って串焼きを食べ始めた。

 「坊主美味しいかい??」

 「うん! 美味いよおっちゃん!」


 「ありがとうございます」

 「君は随分丁寧なんだね。二人共名前は?」

 「あやっていいます」

 「悠介」


 「そっか。俺はレオナルドって言うんだ」

 「よろしくレオナルド!!」

 悠介が元気に答える。


 「レオナルドさんはどうしたんですか? こんな所で……」

 「どうして??」

 「なんか元気がないように感じたもので」

 「あやちゃんは随分鋭いんだな! いや,女性は皆鋭いよな。嫁も娘も居るんだが,二人共鋭いと思う時が結構あるからな」


 「じゃあレオナルドさんは何かあったっていう事ですね??」

 レオナルドさんは今日,たったいま仕事をクビになったという。鍛冶職人のレオナルドは,仕事で大失敗をしてしまって,大事なお客を怒らせてしまったらしい。


 そのせいで,今日親方にクビを言い渡されたという。病気がちな妻が居て,病院や薬代がかかり,娘にも不憫な生活を強いてしまって,申し訳ないと思っていると話していた。


 「まあそれで,ここでうなだれていたんだよ。まあそんな話を君達に話しても仕方ないんだけどな……でもなんかちょっとスッキリしたよありがとうな」

 「レオナルドさん良かったらちょっと話を聞いてもらえませんか?」


 「ん?? なんだい?」

 あやは今考えている計画の全貌を伝えた。今現在,ストリートチルドレンの子供達とお金を貯めてお店を持ちたい事。仕事と家,安定した生活を手に入れたい事。そしてお店をして順調に軌道に乗ったら自分達のような子供達の為に支援したいこと。

 

 今一番困っている事は全員が子供だから信用が無いことと,お店を持つことが出来ないこと。そして表の顔として大人を仲間に引き入れたいと思っている事。あやはレオナルドに代理人としてウチらのボスになってほしい事を伝えた。


 「子供なのにしっかりしてるんだな! でも何故俺なんだ? さっき会ったばっかりで,あまり知らない大人なのに……」

 「レオナルドさんはウチらの事を子供だとは思っているけど,決して馬鹿にして接してなかった。それに子供相手に真剣な話をしてくれる大人は初めてだった。後はウチの商売人としての感かな?」


 「ハハハ! それで俺を引き入れるのかい??」

 「もし即決してくるなら,鍛冶職人として働いていた時の給料をこの場で渡します。それにお店が大きくなれば,その都度給料も上げていきますから,良かったらどうです?」


 「本当に君は子供かい??」

 「あやは,そんじょそこらの大人より遥かに頭がいいぜ?? レオナルドのおっちゃんあやの話には乗っかって損はないと思うぜ??」


 「ハハハ! 大人の俺が娘位の子に商売を持ちかけられるなんてな。わかったその話しに乗っかったよ!!」

 あやとレオナルドは握手を交わす。

 「それでレオナルドさん鍛冶職人の時はいくら貰ってたんですか?」


 「月で15万ギメルだ」

 「じゃあはい! これ!」

 「こんな大金よく持ってるな……」


 「ちなみにレオナルドさん! 裏切ったら死ぬより苦しい思いをする事になるから,あまりウチらの事舐めないほうが良いですよ!?」

 「え!?」


 「おっし! じゃあとりあえず帰るかぁ」

 「悠介なに言ってるのよ。レオナルドさんの家にまずは行くよ!」

 三人はレオナルドの家へと向かった。


 「ここが俺の家だよ。二人共上がっていくかい?」

 「いやいいです! 家族の邪魔になりますから」

 あやがレオナルドに答える。


 「じゃあウチらはこれで! 連絡とかあれば家に行きますからその時に伝えます」

 「俺はこれからあどうすれば?」

 「とりあえずはウチらの連絡待ちという事で。すぐに動いてもらうことにはなりますが,明日すぐにどうって話ではないので」

 「あと,ウチらの事はあやと悠介って呼んで下さい! 一応はウチらのボスって事に今後はレオナルドさんなるわけですから」


 「わかった……」

 「じゃあなーレオナルドのおっちゃん」


 二人はレオナルドと別れて地下の拠点に戻る。もう夕方を過ぎた頃で暗くなっていた。

 戻ると他の子供達は全員眠っていた。アルはあやと悠介の帰りを待っていてくれたようだ。


 「遅いから心配したぜ!」

 「大丈夫よ,悠介が付いてるから何かあっても平気よ」

 「平気って言ってもあや足遅いから逃げれるもんも逃げられないぞ!?」


 「なにー! まあいいわ! そんな事より今日一日偵察してどうだったの?」

 「それなんだがな……」


 荷車の見張りが各荷車に二人配備されていたようだった。それに順番順番で見張りを回していて,ずっと見張りが付いている状態だったらしい。


 「そう? そんなもんだったの? 武器は? 持ってそうだった? 魔法使いはいた?」

 「武器は腰に剣をつけてる人もいたが,皆ってわけじゃなかった。魔法使いはわからねぇー。見たこともないしな」


 「なるほど。悠介! 楽勝よね!?」

 「なんだ?? 僕の出番?? 僕は何人だっていいよ!」


 「よし! それじゃあ明日はちょっと派手にいくわよ」

 「派手にってどういう事??」

 「まあ明日になれば分かるわ! 悠介明日は存分に暴れていいわよ」

 「よっしゃ~! 楽しみだなぁ」


 「とりあえずお休み〜〜」

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