第6話 〜佐藤家の食卓〜

 次の日の朝,子供達を集めて,あやが地図を広げ,今日の作戦を伝える。

 「てな感じで今日はやろうと思うんだけど,質問ある??」

 「おいおい! 悠介それ大丈夫なのか?」

 「「悠介兄ちゃん平気なの??」」


 「楽勝だな!! むしろありがとうだぜあや!! 盛大に暴れるぜ!」

 「大丈夫ならいいけどさぁ〜危険だぜ!?」

 「でも他に奪う方法ないでしょ? 皆大人相手に戦えないでしょ?」


 「そりゃあそうなんだけどさ……」

 「じゃあ決まり! じゃあ行くわよ」


 あやの一声で動き出した。皆布で顔を覆いわからないようにする。

 悠介とあやだけ別行動で先に拠点から外に出る。


 荷車を盗む裏組織の本拠地のアジトへ悠介とあやは向かった。もの凄く大きな屋敷で庭も広いアジトだった。


 あやは遠くで見守っている。

 悠介は堂々と正面からアジトへ突っ込んだ。最初に門の見張り二人をあっさり殺す。

 中へ入り出会う出会う大人達を次々に殺しくいく。


 悠介は父哲治のように武道を習っていたわけではないし,何か特別な運動をしていた訳でもない。

 しかし,人間がやられると嫌な動き,捉えづらい動き,人間が壊れる攻撃などを生まれながらに出来るまさに天才だった。特出すべきはその身体の柔らかさだ。バレリーナを目指す人ほどに身体がぐにゃぐにゃに曲げる事が出来る。攻撃するのも避けるのも柔らかさを活かした動きが多かった。


 そこら辺のチンピラが勝てるわけもなく,庭がどんどん血の海へと変わっていった。

 悠介は荷車の中に入り,中にある薬物であろう商品を片っ端から切って投げ捨てた。空に大量の白い粉が舞う。


 すると屋敷の中から,そしてどこからやってきたのか,外から応援が駆けつけたみたいで,どんどん人数が増えていく。


 同時刻,アル達一行は違う場所で待機していた。

 「あや姉ちゃんと,悠介兄ちゃん大丈夫かな?? アル兄ちゃん!」

 「きっと大丈夫だろ!? あいつらほど頼りになる奴はいないだろ?」


 待機していると,見張りをしていた人達が慌ただしくどこかへ向かっていく。荷車の周りはもぬけの殻となった。

 「おい!! 今だ!! 今行って盗めるだけ盗んで,帰るぞ」

 「「「「「おおおおおおお!!!」」」」」


 アル達はすぐに荷車に向かい,盗めるだけ盗んで,次の荷車の場所へと向かった。


 悠介は沢山の大人達に囲まれていた。そして屋敷の中から一人の男が現れた。

 「随分派手に暴れてくれたな! 言っておくが,逃しはしないぞ」

 明らかに今まで相手してきた大人達とは体格も雰囲気が違う男だった。


 相手が話をしている中,悠介はそいつ目掛けて突っ込み出した。

 途中途中で他の奴らに攻撃されるが,もろともせず全員切り捨てた。


 一瞬で相手の懐に潜り込んだ。悠介は滑りながら股下を潜り,足の腱を切った。相手が膝を落とす。その瞬間に後ろから首の動脈を切った。大量の血がスプリンクラーのように飛び散る。


 男がやられた瞬間,周りで見ていた組織の人間達が逃げ始めた。

 悠介は追いかけてとにかく殺す殺す!!!


 「ピーーーーーーーーーーーー!!!」

 笛の音が聞こえた。すると悠介は攻撃を止めてアジトから逃げる。

 悠介の後を追う組織の人間は誰一人としていなかった。


 悠介はあやと合流し,地下の拠点へと戻る事となった。


 拠点に戻ると全員が出迎えてくれた。

 「おお! 心配したぜ! あやと悠介大丈夫だった?」

 「「悠介兄ちゃん大丈夫??」」


 全員が悠介の姿を見て止まった。全身という全身が血まみれの中で,薄暗い地下の灯りの中で普段見せないネチャッとした不気味な笑顔をずっと浮かべていたからだ。


 「え〜!? 僕は大丈夫だよ〜」

 悠介がそう言っても皆の顔は引きつっていた。

 「悠介あんた血だらけよ! 洗いなさいよ!」

 「そうだな〜アル洗えそうな場所ってないか?」


 「え? ああ共同の井戸が上にあるからそこで洗うといいよ」

 「じゃあちょっと洗ってくるよ」


 「それで!? アル収穫はどうだったの?」

 「今回はこれだけ手に入ったよ!」

 あやが盗んできた盗品を確認する。

 

 「分かったわ。お疲れ様皆!! アルお金渡すから,皆で屋台でご飯でも食べてきたらどう?

 「悠介が戻ってきたら,私達はこの商品を換金してくるから!」

 「俺は付いて行かなくていいのか?」


 「売る場所も分かっているし,ウチらだけで大丈夫だよ」

 「ちょっと頼んでみたい人もいるんだよね」


 「そっかぁ……ならいいんだけどさ」

 「気にしないで楽しんできなよ!」

 「分かった!」


 アルは子供達を連れて外へと出ていった。

 悠介が綺麗になって戻ってきた。


 「悠介,これからレオナルドさんの家に行って,レオナルドさんに手伝ってもらって換金してもらうから悠介も来てくれる??」

 「はいよ〜」

 さっきまでの不気味な悠介の姿はもうなく,いつもの元気な男の子に戻っていた。


 あやと悠介はレオナルドの家へと訪れた。

 「こんにちは〜」

 「はい?」

 ドアから出てきたのは,あやと同い年位の少女だった。


 「レオナルドさんいます??」

 「ちょっと待ってください! パパーお客さん!!」


 奥の方からレオナルドが現れた。

 「やああやと悠介! どうしたんだい?」

 「レオナルドさんちょっとお話が……」

 「じゃあちょっと外に行こうか」

 「パパちょっとこの子達と外行ってくるからお留守番頼むよ」

 「うん! 分かった」


 「さっきのが娘さんですか??」

 「うんそうだよ。アンジーっていうんだ!」

 「早速なんですが,仕事をしてもらいます。ウチらが今日手に入れた商品を闇市の店に行って換金してきてもらいたいんです」


 「え!? 俺が??」

 「はい! ウチら子供だとどうしても足元を見られて,安くされちゃうんです。交渉も上手くいきませんから大人じゃないと。ですのでレオナルドさんに頼みたいと」


 「でも俺は計算や目利きは出来ないぜ?」

 「その辺は歩きながら教えて行きますので,頭にしっかり入れて下さい」

 「まずは服屋に行って服装をもうちょいマシにしてもらいます」


 「おっちゃん中々汚いもんなぁ〜。商人って感じじゃないもんな!!」

 「悠介の言う通りです」


 三人でまずは服屋に訪れた。レオナルドさんに似合う服装を見繕ってもらった。

 その後に床屋さんにも行って綺麗にしてもらった。

 するとレオナルドの姿は見違えた。彼は意外にもイケメンだったのだ。


 「ふぅ〜!! やるじゃんおっちゃん! かっこいいぜ!」

 「そうかな??」

 「大分見違えましたね。それじゃあ行きますか」


 三人はそのままスラム街にあるアルに紹介してもらった店へ目指す。その間にこの商品全体で普通だったらこの位の価値があること。そして店の人は最初はこの位だと言ってくると思うとあやは丁寧に説明した。そして値段交渉をすると,店の店主はきっとこのぐらいの提案をしてくるに違いないとあやは言い切った。


 だが,そこからが本番で,そこから本当の交渉をしてほしいとレオナルドに説明する。

 「あや,それは本当に言う通りになるのかい? 俺に出来るのかな?」

 「出来る? ではなく,やって下さい! アンジーちゃんの為にもお父さんを見せて下さい」


 「やる〜〜」

 悠介があやをおちょくる。

 「何よ??」

 「いやなんでもないけどさ! 頭が良すぎて引いてるだけ」


 「まあいいわ。頼みましたよレオナルドさん!」

 「頑張ってくるわ」

 話をしているといつの間にスラムの店の前まで来た。


 「じゃあウチらは外で待ってますから」

 レオナルドは沢山の袋を担いで店へと入っていった。


 しばらくするとレオナルドが店から出てきた。

 何故か気持ち悪い笑顔を見せていた。

 「どうでした? 上手くいきました?」

 「ああ! 全てあやの言ってた通りだったよ」

 

 そして手にした三百万ギメルを見せてきた。

 「これが換金で手にしたお金だよ」

 あやに手渡す。


 あやは数万抜き取りレオナルドに渡す。

 「これでアンジーと奥さんに美味しい物でも買ってあげて下さい」

 「いいのかい?」

 「はい! ウチらだけだったら絶対にここまで高く買い取ってもらえませんでしたから!」

 「ありがとう」


 三人はスラムを後にした。

 「じゃあウチらはこの辺でレオナルドさん。もうちょっとしたら忙しくなると思いますので覚悟しておいて下さい」

 「ああ,任してくれ」


 レオナルドと別れる。

 「ああ腹減ったなあや! とりあえず屋台で何か食べるか!?」

 「そうね! そうしよう」

 二人は屋台で食事を済まし,拠点へと戻る。


 「おかえり! あやと悠介。それでどうだった?」

 アルに今回の成果を見せる。しかし見せたのは二百万ギメルだった。

 「おおすげー。本当に後少しで店を持てるんじゃないのか?」

 「いや! 一番の問題がまだ解決してないのよ」


 「なんだそれは?」

 「文字を知らない。アルは文字読める?」

 「読めないよ! あやと悠介も?」

 さっぱりというジェスチャーをする。


 「これを克服しないとこの先進めない。絶対に躓《つまず)く。とにかくウチが字を覚える手段を考えるわ」

 「あやだったらちょっと本見たらすぐ分かるだろ?」

 「その本がないから困ってるよ。本屋だって図書館だってないのよ!」

 「え!? 本当に!? それは困るな確かに」


 「こればっかりは次の食事会の時に聞いてみるわ。もし駄目でも教会に行けば見れると思うからどうにかするわ」

 「まあ今日はとにかく疲れたわねそろそろ寝ましょうか」

 三人はそのまま眠った。


 家族は異世界に来てそれぞれの一週間が経った。


 全員が哲治に泊まっている宿の食堂に集まる。

 久しぶりに家族全員が揃う。

 

 「皆揃ったな! じゃあいただきます」

 「「「いただきます」」」


 家族が食事をしながら自分達に起こった出来事やしてきた話をしていた。

 哲治はギルドの依頼を着実に達成している事,舞は侯爵の家にやっかいになっている事。悠介とあやは自分達で店を持つことを話した。


 「そうなんだな! 皆色々やってるんだな! 手伝える事があれば手伝うぞ」

 「お母さん,侯爵の家に本とかない?」


 「どうかしらねぇ〜。私は見てないけど。どうして??」

 「この世界の字を学びたいんだけど,本がどこにも無くて困ってるんだよね。それと侯爵に頼んで,安く借りられる商店を開けそうな物件を紹介してもらえないかな?」


 「あやは,そんな事を考えてるの? 聞いといてあげるわ!」

 「本が見つかったらここに届けて,ウチに渡してほしいって頼んでほしい」

 あやは地図を見せて,レオナルドの家を教えた。


 「悠介はどうなんだ? 楽しいか?」

 哲治は悠介に尋ねた。


 「うん! 楽しいよ。新しい仲間も出来たし,あやに付いていけば上手くいくからね! それに屋台の食べ物も美味しいしね!」

 「そうか。なら良かったけど」


 「それとお母さん貴族と繋がったなら,暗殺の依頼とかないかな? あれば悠介が請け負うから良い収入になるかと思って。お母さんにも紹介料渡すから」

 「そうねぇ〜そっちはすぐにはいかないかな? 毎日会えてる訳じゃなくて,一週間で一度だけ会ってるからまだ込み入った話は難しいかな。本と物件はどうにかなるとは思うけどね」


 「わかったわ,お母さんお願いします」


 「まあ,そんな話しはその辺にして,食事を楽しもう」

 「そうね」

 「はい」

 「ほいよ〜」

 家族達は食事を楽しんだ。


 「「「「ごちそうさまでした」」」」

 「じゃあまた一週間後に会おう」

 「またね」

 「「また」」

 それぞれの住処へと戻っていった。

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