第2話 〜ギルドマスターと激突〜

 「哲治,ここにある武器好きなのを使っていいぞ。ある程度手加減してやるが,この依頼に見合うだけの実力があるかどうかは見るから覚悟して挑んでこい」

 哲治は短剣を二本手に取り,武器として使うようだ。


 「哲治お前なんだその構えは」

 「気にしないでくれランベルクさん! 俺の独自の構えってだけだ」

 「まあなんでもいいさ! いつでもかかってきていいぞ」

 ランベルクそう言うと,哲治はすぐにかかっていく。

 

 独特の構えと低い姿勢からランベルクへと詰め寄る。ランベルクは魔法で応戦する。

 ランベルクは火と氷,水の玉の魔法を哲治に向かって撃ち込む。


 哲治は魔法を初めて見るのに,ゆらゆらと独特な動きで華麗に躱す。

 「おおお! やるじゃねえか」


 哲治がランベルクの懐へと入り込む。二本の短剣を自在に動かし,ランベルクに攻撃をする。

 ランベルクは大剣を使って,哲治の素早い攻撃を捌いている。


 哲治は妙な動きをし始めた。

 「ねえお母さん,お父さんは何をしてるの?」

 悠介が舞に尋ねた。


 「私にはわからないわ! お父さんの事あまり知らないし,初めて見たしね」

 「ふ〜ん」

 傍から見てる外野からするとお父さんの動きは何か踊っているような,酔拳のようなユラユラと独特な動きを醸し出している。


 妙な事に哲治が妙な動きをし始めてからランベルクの攻撃の手が止まった。

 彼の目に何が写っているのかは定かではない。


 すると急に哲治の姿が消えた。消えたと思ったらランベルクの背後にいる。

 そして妙な動きをし,また消える。哲治が消える度にランベルクの肉体に傷が増えていく。


 ランベルクが急に光ったと思ったら,円柱型の炎がうごめきき立った。

 すると消えていた,哲治の姿が見える。洋服が炎で焼かれたのか燃えている。

 二本あった剣も一本溶けてしまっている。


 「ギルドマスターーー!! やりすぎですよ!!」

 ララが大声を出す。


 「大丈夫大丈夫! ちゃんと手加減してるから! 哲治! お前は凄い! が魔法との戦闘経験があまりなさそうだな。それに俺の事あまり知らないだろ? じゃなきゃこんなに接近してくるはずがない」


 「まあいい! とりあえずかかってこい」

 哲治の姿がまた消えた。見えるのは,ランベルクの姿,そして剣と剣がぶつかる金属音だけだった。


 勝負は一瞬で決まった。ランベルクも急に姿が消えたかと思ったら哲治が地面に倒されていた。


 「いやはや! ランベルクさん。降参です。まさか俺が負けるとは思いませんでした」

 「俺に勝つつもりだったのか? 一応この国で一番強いって言われてるんだぜ俺は」


 「自信はあったんですけどね! 魔法ってのは中々厄介ですね」

 「哲治,お前のその体術? 流派は何なんだ? 今までに見たことがないぞ」


 「これですか? これは古武術にカポエイラ,シラットや……いや! 俺独自の流派で俺が考えたものです。真似することも出来ないし,教える事も出来ません」

 「そうなのか! 良かったら教えてもらおうと思ったんだけどな」


 「残念ながら……それでランベルクさん俺は依頼を受けてもいいですか?

 「ん?? ああいいぞ! 盗賊団殲滅の依頼頼んだ哲治」


 「えええ!? ギルドマスター本当にいいんですか?」

 「ララ,大丈夫だよあいつなら! 冒険者ってのはモンスターと戦う事を想定した武術や剣術などを身につけるもんだが,哲治は対人に特化した武術と戦闘スタイルだった。人を殺すために特化した攻撃だった。依頼の盗賊団なら余裕だろう」


 「ギルドマスターがそう言うなら止めませんが」

 「ランベルクさん明日早速この依頼行ってきますよ!」

 「ああ頼んだ!」


 哲治は家族の元へ戻った。

 「お父さんお疲れさまです」

 「ありがとう舞。とりあえず仕事が見つかったよ」


 「お父さんって強かったんだな!」

 「まあ今までそんな事を見せる機会もなかったしな悠介」


 「これからどうする??」

 あやがこの先の事を心配した。


 「あや。とりあえずお父さんはこの仕事で仕事と家とお金は用意する。佐藤家のルール通り,好きな事をしな! その代わり今日を金曜日として,毎週金曜日はお父さんの住んでいる所で食事をしよう」


 「お父さんがそう言うならそうしましょう」

 「まあお父さんが言うならしょうがないか」

 「わかったよお父さん。ウチは悠介と共に行動しようかな」


 「そうだ哲治ちょっとこっちこい」

 哲治はランベルクに呼ばれて方を組まれて,ひそひそ話で話しかけられた。


 「お前,いやお前達ってどっから来た?? この国の人間じゃないだろ?」

 「え? なんでそう思うんですか??」


 「お前自体もそうだが,あんな綺麗な嫁さんが居て,噂すら聞いたことがない。貴族でもない一般市民であんな綺麗な人が居たら噂に絶対になる。なのに聞いたこともないし見たこともない。だからどっから来た??」


 「なるほど! 確かにこの国出身じゃないですよ。でも別に問題ないですよね?」

 「勿論ないけど,気をつけろよ!?」


 「俺の家族なら大丈夫ですよ! それよりいい宿紹介してくれませんか?」

 「なんだまだ泊まる所決まってないのか? じゃあ俺のオススメ紹介しとくぜ」

 「ありがとうございます」


 哲治は開放されて,家族と一緒に冒険者ギルドを後にした。そしてランベルクに紹介してもらった宿屋へと向かい扉を開けた。


 「いらっしゃいませ〜。宿屋ガイヤへようこそ」

 カウンターの受付から元気に挨拶をしてくれたのが,悠介とあやと同い年位の年齢の女の子だった。


 褐色肌をした,後ろに三編みをしている活発そうな少女だ。

 「ランベルクさんから紹介されて宿泊をしたいんですが」

 「ランベルクさんからですか? ありがとうございます! え〜と四人部屋で良いですか?」


 「いや! 全員別々の部屋にしてくれ」

 「良いんですか?」

 「ああ頼む」


 「一泊6千ギメルになります。朝と夜はあちらの食堂で食事が付きます。追加料金を払えばお酒や追加で料理を頼むことも出来ます! ではこちらが鍵になります。部屋は二階になります」


 「ありがとう」

 四つ鍵を渡された。


 家族は二階に上り哲治は皆に鍵を渡す。

 「じゃあ三十分後に食事にしよう」

 「わかりました」

 「ほいよ〜」

 「わかった」


 哲治は部屋に入ると,机とベットだけという簡素な部屋の作りだった。部屋は掃除が行き届いていて,清潔感のある部屋だった。ベットに敷かれた白いシーツがこの宿屋のクオリティを物語る。正面に見える小窓から月明かりが部屋に微かな明かりを灯す。机の上に置いてあるランプに火を点けると部屋が明るくなった。


 「ランベルクさんいい宿紹介してくれたな!」

 それぞれ少しゆっくりして三十分後に家族が揃う。


 「それじゃあ食事に行こうか」

 哲治が皆を連れて一階の食堂へと向かう。


 「はいはい! 好きなところへ座って〜」

 言われた通りに家族は好きな席に着く。

 少しすると,先程話しかけてくれた女性がテーブルに来た。


 「あんたたちかい? ランベルクからの紹介で来たっていう家族は」

 「ええ! はいそうです」

 舞が答えた。


 「私がこの宿の女将をしているアンナってんだ。よろしくね! 食事は少し待ってな! すぐに持ってくるから」


 「えぇ〜もうお腹空いちゃった! おばさん早くしてよ〜」

 「悠介!! そんな事言っちゃ駄目だって!!」

 「いやだってあや,僕たちあれからずっと食べてないんだよ? 流石に限界だよ!」

 「ウチが言いたいのはそこじゃない!」


 「ハッハッハ! 気にしないでいいよ! 子供は元気が一番だな! すぐに持って来させるから待ってな」

 アンナと名乗った女性はまさに母ちゃんといった貫禄がある女性だった。

 少ししたら,ガタイの大きな190センチ近い巨体で,ムキムキの男が料理を運んできた。


 「この宿を営んでいるモリウスだ! ランベルクから聞いて来てくれたってな! 何か困ったことなんかあったら,何でも聞いてくれ。元々ファースト・ライトのギルドマスターをやっていたから結構頼りになると思うぜ!」 


 「モリウスさんありがとうございます! 俺はこの宿にずっとお世話になろうかと思ってますので,今後もよろしくお願いします。哲治って言います」

 「哲治かよろしくな! とりあえずは料理をたらふく食べてくれ」

 どんどん料理が運ばれてきた。


 「じゃあ料理も揃った事だし,いただきます!」

 「「「「いただきます」」」」

 家族はやっと食事にありつくことが出来た。


 「「「「「ごちそうさまでした」」」」」

 「食事美味しかったですね」

 「この世界の食事が口に合うか不安だったけど,美味しかった」

 「モリウスのおっちゃん料理上手だな〜!!」

 「ウチは久々にこんなに食べたよ」


 「満足してもらったようで良かったよ! ハハハ!」

 「アンナさんご馳走様でした」

 「とても食事が美味しかったです」

 哲治と舞が言葉を返す。

 

 家族の全員それぞれの部屋へと戻った。

 満腹になったからか,それとも単純に疲れたのか分からないが,家族の皆はベットに横になるとすぐに寝た。


 「もう朝ですよ〜!! 皆さん起きてください!!」

 その声を聞いて家族の皆は起きた。すっかりと寝ていたみたいだった。

 部屋から全員が出てくる。


 「食堂で朝ごはん食べれますから早く行ってください!」

 「おはようお嬢ちゃん!」

 哲治が昨日受付をしてくれた女の子に挨拶を交わす。


 「私はお嬢ちゃんじゃありません! リリーって名前があるんで覚えてください!」

 「お・じ・さ・ん!!」

 「それは……悪かったなリリー」


 皆で食堂へと向かう。異世界の朝の食事といえど,豪勢なものだった。野菜や肉が入ったスープにパン,そしてサラダまで付いていた。


 皆で食べ終えると支度し,宿を出る。

 「さてと! 俺はこれからギルドに行って依頼を受けるけど,皆はどうする?」

 「私は適当にフラフラするわ! 毎週きちんとここで食事に顔は出すけど,私はギルドで仕事も出来ないし,何か他に仕事も出来そうにないから,丁度いい男を探します」


 「それよりも,悠介とあやはどうするの?」

 「そうだよあや! 僕達はどうするんだ?」


 「そうね。ちょっと街を散策してから考えるよ! まあでも悠介とウチが力を合わせたら大丈夫よ」

 「あやが言うならまあいいけどさぁ〜,僕はあやに付いて行くよ」


 「そうかぁ。まあ何かあればお父さんはここに居るからいつでも来なよ! じゃあとりあえず解散」

 哲治の一言で皆それぞれ解散した。

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