第16話 親と子

ドライブレコーダーの発達で、夫婦は車の中で仕事の話をしないようにしていた。とにかく依頼者の秘密を守るためだ。しかしながら珍しく夫がこう切り出した。

「あのまま、別れていた方が子供達のためには良かったかな、結局危険な仕事を選んだ」

「それはあの子の選んだこと、いいじゃない」

「だが今回の事件では姫が心配なんだ、この事件妙だ。本当に人を捜すのならば、うちみたいな家族経営の所に頼む訳がない」

「つまり、リークもワザとってこと? 」

「情報が詳細すぎる。町内会長夫婦を訪ねた三人とも、「彼らは美人の事を聞かれても、知らないと言うだろう」と話したことまでだ。つまり、調査はしたいが、大規模に動くとすぐに美人から逃げられる。

国も警察も組織的な可能性を否定できない、きっと何にもつかめていないんだ。そうでなきゃ、Uさんからちょっとしたことで電話もないだろう、もしかしたら俺たちを紹介したのもUさんかもしれない」

「危ない? 」

「危なくはないと思うよ、まあ、行ってみよう、それが何より証拠になる」

そして二人は時間よりも早く議員と直接会ったが、その態度は全く予想外のものだった。


「本当にありがとうございます、息子が生まれ変わったように元気とやる気に満ちまして、あなたのおかげです。「死のうなんて考えてはだめだ、ロミオとジュリエットになってしまう」と言って下さったそうですね、それに励まされて、今では周りが驚くほど、大学でも熱心に勉強、研究をしているそうです。「いつか彼女にきっと会えます、お父さんが携わったプロジェクトを復活させればきっと」と。

まあこのことはどうなるかわかりませんが、とにかく良かったです、これ以上、私の望むことはありません。どうかお納め下さい」

と現金を渡された。

 本当に依頼者が喜んでくれた仕事の一つになった。


「お帰りなさい、お父さんお母さん! 早かったね! 」

幼い頃のように、二人の顔を見て不安が無くなったように姫は言った。親の顔が今ひとつ晴れないのが気になりはしたが、依頼者から極端に責められたわけでは無いとも思えた。

父親は母親と話し合ったことを伝えた。

「姫、今回の仕事は終了だ。全う出来なかったが、依頼者は本当に満足してくれた、それでいいんだよ」

「え・・・・どういうこと? 」

「若い男の子が、失恋をバネに生きる希望を見つけたのよ。親御さんにとっては、それで良いのよ」

「でも! お父さん! この町の繁華街で色白美人がいるのよ! 」

「え!!! 」さすがにこのことに両親は驚いた。

「どこからその情報を? 」

「Y興産の美人を追いかけていた人、色々やりとりしているうちに、ちょっと体調がおかしいと言っていたから「きっとそれは急性の病気だから早く病院に行った方がいい、その近辺に名医がいるから」って教えてあげたら、緊急入院で回復したの。その後「こういう薬をもらうと思うけど、あなたの場合はこの薬の方がいいかも」って書いたら・・・・教えてくれたの、この情報」

「この子すごい! あなた」

妻の言葉には全く答えること無く、父親は考えはじめた。その顔をじっと娘は見つめ、待った。

「姫、チャンスは一回だけだ、それを逃したら、きっと彼女は姿を消すぞ」

「うん! お父さん!! 」

すぐに計画を練った。

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