第15話 道 未知 満ち

「うわ!! この人すごい情報網、まあY興産ってのは自分のことだから当たり前にしても、官僚の話も研究員の話も完全一致だ。

あ! ここまで知っている! 三人の共通の友人で、その人の家の近所に美人が住んでいたことも。「情報屋」になれそう、私以上に「信頼できる情報」に対する嗅覚が優れているんだ。

ああ、どこでねじ曲がっちゃったんだろうな、そうでなきゃ優秀な人になっただろうに。次期社長になる人が優秀すぎて、ちっちゃい頃から比べられてたからかな・・・まあとにかく、お礼の返事を打たなきゃ」

 

 姫は一つ大きな息を吐き、文章を打ち始めた。内容は考えていたし、そう長文ではないので早く終わったのだが、それを何度も何度も確かめる事に時間を費やした。

「私が記者でない事がばれないようにしなきゃいけない、この人、女癖悪そうだから、絶対に今の年齢とか知られたくない。私の人生めちゃめちゃにされそう」

彼女は自己防衛能力も高かった。

「よし、いいかな、最後のプレゼントもあるし。

わかるんだよね、この人、何か情報持っている、かなりのものを。

あなたの方が長く生きているだろうけれど、今まで処理した情報の数では私にはかなわないでしょうから、送信、と」

 

姫は回転する椅子で小学生のようにクルンと回りながら、お菓子を頬張った。そしてまたあの刺繍絵を見て


「お父さん、私がこんなことして欲しくないと思っているのかな。

きっとこの中の可愛い女の人みたいにさわやかに・・・・・

私が大学に行きたいと言ったから、今回の依頼を受けたんでしょうね」

 

 もちろん自身の事なので、調査の日、泣いたことはよく覚えていた。

「ごめんね、姫、ごめんね」

母親から強く抱きしめられた事。

クラスメートに「お父さんは警備会社に勤めている」と幼い頃から言い続け、今でもそうしている事。これはしかしウソでも無い。助っ人として行くこともあるからだ。

実は学校では、ちょっとぼーっとしているキャラを装っている。パルクールをする事は知られているけれど、親の仕事は絶対に明かさない。興味本位でガヤガヤされるからだ。母親が兄と自分を守るために、離婚を考えたことも理解が出来る年になった。

「確かにちょっと変わった女子高生かな。あ! 返事が来た!! 」

それを見るやいなや、彼女はパソコン内ではなく、部屋の大きな文字時計を見ては、外を見ることを繰り返した。

「色白美人がいる!! この町の繁華街に!! でも、もう出社しているか! あそこなら自転車で20分、でも行っているうちに暗くなる、女子高生の私が、店の前をうろうろしていたら職質される。ここから出るなって言われているし、あの繁華街はむしろお父さんに任せた方が確実よね、私が行って逆に面倒になったら・・・」

そんなとき、スマホが震えた。

「え! このタイミング? 」

姫の顔は一瞬で堅いものになった。電話の声とは裏腹に。

「すごーい! Uさん、まさかうちの事務所にカメラつけてないでしょうね」

「ハハハ、警察の人間でもそれをやったらつかまるよ。じゃあお父さんいないんだね、良かった」

「え! 秘密の話? 何です? 」

「まあ、時々お父さんに話しはするんだけど、考えてくれないかなあ、警察学校の話」

「聞いてはいます。それより、お兄ちゃんどうしてます? 」

「どうしてるもこうしてるも、お兄ちゃんも悪いんだよ」

「え! 何かしたんですか? 」

「優秀すぎてね、妹さんもいると知ったら、勧誘しろと周りがうるさくって」

「警察官僚直々ですか。光栄ですけど、お父さんの気持ちを考えると」

「しばらく姫ちゃんをのんびりさせてやりたいって思いなんだよね。

それはわかるよ。実はいまだに陰口で言われるよ。姫ちゃんのおかげで私が出世したって」

例の姫が囮になった調査では、大規模な犯罪と直結していたため、警察と協力しての事になっていた。結果事件は無事解決し、警察とも強いパイプが出来た。

「お父さんに姫ちゃんの電話教えてって言ってもいい顔しないから。どんどん美人になっていくしね、女房からもちょっと釘を刺されたりして。ああ、でも伝えてくれって「あの刺繍絵素晴らしい」って」

「今事務所に飾っているんです! 手芸好きの奥様ならわかって下さると思ったんです! 是非見に来られて下さい!! 」

「そうなんだ、喜ぶよ、女房に言っておこう。で、一応考えておいてね、まあ姫ちゃんなら、大学に行って私と同じ道もあるよ。パルクールもすぐ上達したよね、ああ、今は怪我だったね」

「ええ、みんなからストップがかかって」

「しっかり休むことだよ、じゃあね、帰り道は気をつけて。美人さんなんだから」

「はいありがとうございます」


電話を切った後、姫は窓のブラインドを完全に閉め、今度はため息をついた。

「行くのは止めよう、何だかおかしい」

Uさんの「気をつけて」という言葉の裏に、かなりのことがあると確信できた。解決すれば、彼が一気に出世街道を駆け上がれるまでの事が。



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