第14話 最愛の娘

「お父さん、お母さん、今の仕事大変なんでしょ? 私久しぶり協力するから。今どうせ怪我で動けないんだし」

中学からはじめたパルクールで足首をひどく痛め、ドクターストップがかかっていた。

 両親はあまり良い顔はしなかったが、とにかく情報を集めることを頼んだ。


「あの子すごいわ、全国の美少女コンテストをしらみつぶしに調査して」

「お前も芸能事務所をあたったろう? 」

「それはこの仕事の一部だから」

探偵の職業柄、いくつかの顔を持っていることは最大のメリットになる。以前芸能関係の依頼で知り合った人に、母親は好意で「めったに出社しないスカウト」という立場を与えられている。その人物から

「姫ちゃん、どうです? 」と言われるほど、実は可愛い娘だった。

「パルクールでも結構有名なんでしょ? 売れますよ! 」

 しかし本人はその気が全く無く、今はパルクールに熱中している。

以前は何かと親の仕事を手伝いたがって困っていた。

 実は姫が小学校低学年の頃、父親が調査の囮のようにして使った事から、夫婦仲は最悪になった。姫には兄がいるが、以前その兄にも同じ事をさせたので、母親の逆鱗に触れるのも当然だった。

 小学校低学年の姫の前で、二人は激しい言い争いになってしまった。それを見た姫は最初はだまっていたが

「違うの! お母さん!! お父さんに私がするって言ったの!! お父さんは悪くないの!! 」

急に涙ながらに訴えた。

その時に母親は痛感した。この子は、いや、兄の方も、危険なことをやるよりも、自分達二人の仲が悪くなることの方が、何倍も辛いことを。そして二人とも幼いながらに理解していた。普段は助っ人を頼まないのに、父親も細心の注意を払って、多くの人の目で我が子を守っていたことを。

 兄は警察学校を卒業し、今警官になっている。そしてそれ以来、本当に簡単な仕事の時は、姫を事務所につれてくることにした。そこで宿題をしたりしている姫は、気付かないうちにノウハウを会得していった。あふれている情報から、正しいものを抜き出すことが瞬時に出来るようになった。

「きっとこの人は、このことに関しては嘘は言わないと思う」

小学校を卒業する頃になると、そんなことまで言い始めたので、親としては逆に薄ら寒い気までした。だがちょうど良い具合でパルクールに出会い、練習とジムに行くのが日課になった娘を、ほっとした気分で見ていた。高校に入学しても、姫はパルクールを続けた。だがひどい怪我で、目標にしていた試合に出場出来ないところに、この仕事がやって来た。


「情報戦ではもうあの子にかなわないからね。姫からの情報を聞いた後で行った方がいいかしら? 」

「議員さんだ、何かと忙しいだろう、時間は絶対合わせなきゃいかんよ。でもとにかくお前、止めてくれよ、美女のみで秘密裏に構成された自然保護団体なんて話はマンガだ、俺の肩書きに傷が付く」

「肩書きなんてあったの? 」

「あのなあ、結構すごい依頼も来るんだぞ! 」

「え? あったっけ? 」「今回・・・」

「絶対、息子、娘の七光り」「うるさいなあ、行くぞ」

叱責を覚悟していた。

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