第13話 大人の事情
一方両親は、姫の予想通り、人気の無い近くの公園で真剣に話していた。二人とも焼き芋片手に、急に寒くなった秋の日には、ちょうど良い間食だった。
「依頼者から呼び出しって怖いわね、何かしら? 情報漏洩で、彼が議員辞職とか」
「どうだろうな」
依頼は少々親バカじみているとも思えた。遠方の有名大学に進んだ息子の彼女が突然いなくなり、大学にも行かず塞ぎ込んだままだという。「彼女に会えないのなら死にたい」とまで漏らすので、親として、将来の自分の後継者となる人間のため、大枚をはたいても彼女を見つけてくれという依頼だった。人捜しは探偵の基本中の基本なので、少々お金に目がくらんだ感じで引き受けたのだが、これが大間違いだった。
まず息子に聞いても「彼女の写真はない」と言うのだ。カメラを極端に嫌い、一度ふざけて急に撮ったら、烈火のように怒られると思いきや
「ほら、私何故か写真写りが悪いの」と二人で笑い合い、すぐに消去した。確かに写真写りの悪い人というのはいる、女性でも、実物の方が数段きれいという人もいる。
しかしこの彼女は、彼女であって彼女で無い。同棲はしていたものの、高級クラブのホステスなのだ。その人が荷物ごと、ある日突然姿を消した。店側も困った。なぜなら売れっ子中の売れっ子、入ってほんの数ヶ月経っただけで、圧倒的な№1になっていたからだ。
それ故に会えるのは特別な人間で、彼女が「いいです」と言った人だけになった。元々お金のある人しか入れないような所であるのだが、他のホステスが言うには「客の選び方が変」で、つまり選ぶ基準がお金では無い。そしてそれは一層客の男心に火をつけたが、同僚は面白いはずもなかった。
「あんた生意気よ! 」店の男性がいない時、くってかかった女性に対し、彼女は何も言わず、フッと口角だけをあげた。尚更頭にきて殴りかかろうとすると、すっと避けられた。
「私、中学生の頃、県の選抜に選ばれるくらい運動神経がいいのに! それにあの人撮ろうとするとスマホが壊れたのよ!! 」
さすがに仕事上話し上手だからか、父親は同僚のホステスの証言の一部始終が、まるでドラマのように見えた。この店のオーナーにももちろん話しを聞いたが、突然「すいません、申し訳ないのですが今日で最後です」と仕事終われに言われ、引き留める時間も無かったという。
「面接したときは、こんなきれいな子がどうしてと思ったんですが、試しにお酌をさせたらまあ・・・・・出来ない。でもとにかく店に出してみたら、打って変わってまるでベテランですよ! 」
「お客の選び方が変わっているって聞いたんですが」
「まあそうですね・・・・・建築関係かな。特に例のプロジェクトの関係者の話しを聞いていましたね。ほら、そう言う話しって、相手に興味が無いとすぐわかるでしょ? でもすごく熱心に聞いているから、お客さんから」
「こういうこと好きなの? 」って聞かれて、すると
「ええ、今皆さんがやっていらっしゃる事が素晴らしいと思いまして。私動物・・・好きなので」
って感じでね。そう言われると、お客さんも上機嫌ですよ、紹介で次々店にやって来てくれて、「プロジェクトの女神」と言われていましたよ」
高級店のオーナーのため、最初は口が堅かったが、慣れた手練手管を使い、父親は聞き出すことが出来た。
「でも、その大学生の男の子と本当に親しくしていたのは知りませんでした。一人で良く来るなあとは思っていたんです。最初は地元の議員さんと来られて・・・・・」
しかしながら肝心の彼女の足取りは全くつかめない。実は元々住んでいたところも完全な嘘で、大学生の家に住んでいた事だけが事実であったようだ。しかしその彼が「彼女の荷物は最低限しか無かった、スーツケース一個分くらい」という。夜の仕事なのだから、衣装は自前のはずなのにだ。
前金でかなりの高額をもらっているにもかかわらず、何の成果も無い中間報告を議員にすると
「そうですか、そうだろうと実は思っていたんです。しかしある筋から、息子と全く同じような話しを聞きましてね・・・・」
何よりも糸口になる情報源だった。そして姫が気が付かないはずはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます