◆小話



「よう、異世界の御方。帰るってマジ?」

「マジ。わざわざ確認しに来たの? 何か予定あった?」


 言うものの、私が帰っても問題ないことは確認済みだ。基本的にこっちの世界では気まま生きているけれど、義務はきちんと果たしているので。


「いやそーいうのはなんもないけど、異世界人サマをデートに誘おうと画策していたので」

「よかった帰ることにして」

「ひどくねぇ?」


 非難の言葉を口にしつつも、魔法師団長の顔は笑っている。マゾ?


「いや、虐げられて喜ぶ趣味はねぇなぁ」

「勝手に心読まないでくれる?」

「読心使わなくても表情でわかるって」


 そんな顔していただろうか。確かに向こうの世界よりもとりつくろわないでいるけれども。


「愛のなせる業だな!」

「それはない」

「俺から異世界人サマへの愛はあるからありだろ」

「いやないでしょ」


 利用価値がある『異世界人』だから口説きまがいのことをしてきていることなんて、もはやお互いの共通認識だ。それでも愛だのなんだで迫ってくるところはある意味すごいなと思う。


「あんたは俺の愛をなかなか認めてくれないよなー」

「利潤目的のそれを愛だとか言えるのがすごい。言っとくけど褒めてはない」

「先回りされたところにお互いの理解が深まったのを感じて嬉しくなるな」

「その何でもポジティブにとらえる頭はある意味うらやましいと思う」


 どちらかといえばネガティブになりやすい方だと思うので、これは真面目に。


「俺と一緒にいればうつるかもよ?」

「そんな感染するものなの?」

「影響は与えられるもんだろ。だからデートしようぜ。また来た時でいいから」

「いや」

「即答か~。理由は?」

「わかってるでしょ。しがらみ増やしたくない」

「何も結婚しろとは言ってないだろ」


 この世界に縁付くことになる『結婚』を私が忌避していることを知っての言葉だけど、何もしがらみはそれだけじゃない。


「あなたとデートなんかしたら、周りがうるさくなるに決まってるからイヤ」

「まあ俺もあんたも注目の的だし? それは避けられないな。……いや待てよ」


 魔法師団長が何かを思いついた顔をする。……嫌な予感。


「ならお部屋デートしようぜ。それなら周りに知られないだろ?」


 お部屋デートなんて言葉がこっちの世界にもあるとは思えないのでおそらく異世界からの輸入かなとか、この世界でのお部屋デートって何するんだとかいろいろ頭をよぎったけれど。


「絶対お断り!」


 内容をきかなくてもろくなことにならない予感しかしなかったので、私は拒否を叩きつけて、帰るために部屋を飛び出したのだった。


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