第4話 何度でも⋯⋯


 ふと目を覚ますとそこはとても明るかった。


【ピッ、ピッ、ピッ、ピッ】


 規則正しい電子音が鳴り響く。


【パタ、パタ、パタ】


 忙しなく動く、誰かの足音が聞こえる。


『私⋯⋯白川くんと散歩中にトラックにぶつかって⋯⋯。ここ⋯⋯病院?』


 身体から痛みは消えていた。


『あぁ、私、助かったんだ! 今度は死なずに、しかも生まれ変わらずに済んだんだ!』


 死なずに済んだということはまた白川くんと暮らせるんだ⋯⋯と、そう思った次の瞬間。


「おめでとう!元気な女の子ですよ!!」



 あ?



 いやいや、確かに私は女(メス)ですけども⋯⋯


 元気な女の子ですよって、今の今、生まれた訳では⋯⋯


 生まれた⋯⋯?


 生まれ⋯⋯変わっちゃった⋯⋯??


 私は恐る恐る自分の身体を感じてみる。

 手足はある⋯⋯けど、犬であった時のそれよりも自由に動かない。他は⋯⋯動こうとしても思い通りには動かせない。


 声は⋯⋯。


「おぎゃー、おぎゃー!」

【白川くん! 白川くん!】


 って、赤ちゃんじゃ~ん!!!


(ということは⋯⋯)


 犬の私はあのまま死んだんだ。あんなに白川くんに大切に育てられて、愛されていたのに。

 その白川くんの目の前で死んでしまったんだ。

 最愛の人の目の前で死んでしまったこと、そして、また生まれ変わってしまった事に絶望しつつも、私はふと考えた。


『これまでの生まれ変わりでは、必ず白川くんのそばに居られた。きっと今度だって絶対何かしらの関わりは持てるはず』


 私はそう信じて、限られた動きの中で白川くんに繋がる何かを必死に探した。


「おめでとう! お母さん、がんばったわね。さぁ、赤ちゃんを抱いてあげて」


 ナース服を着た看護師らしき人が、私を抱かせようと私の母親らしき人に私を差し出す。

 まだ視界ははっきりしてはいないが、目に映った横顔には確かに見覚えがあった。


『花音さんだ!!!』


 そういう事か⋯⋯私は瞬時に状況を飲み込んだ。

 犬の私は死んで、花音さんの子どもとして生まれ変わったんだ。

 ということはきっと、私のお父さんは⋯⋯。


「花音、おつかれさま。痛かったよね⋯⋯よくがんばってくれたね。ありがとう、ありがとう!」


 そう涙ぐみながら語りかける声は私の大好きな声⋯⋯。

 やっぱり私のお父さんは白川くんなんだ!


 「海......。私こそありがとうだよ。この子を、海との子を産ませてくれて。これから3人、仲良く生きていこうね」


 花音さんも涙声でそう答えた。


「うん。この子と花音と俺と、たくさん遊んで、たくさん話して、楽しい家族になろうな!」




──────────




 病院から退院し、私は懐かしい部屋の天井を眺めていた。

 犬として住んでいた白川くんのアパート。ここで犬としてたくさんの愛情を白川くんに注いでもらった。

 これからは、犬ではなく白川くんの子どもとして、白川くんからの愛情をたくさん受けて成長していくんだ。


「ねぇ、海。最終的にどれにする?」


 花音さんが白川くんに話しかけた。私の名付けの相談をしているんだ。


「俺、これにしようと思うんだ。俺の【うみ】と花音の【おと】を合わせて⋯⋯(みお)だ」


 今、なんて......?


「そうだね!うちらの一文字ずつも合わせてるし、響きもいいよね。私もそれがいいと思う! 海の音ってなぜか癒されるんだよね。この子にはそんな周りを癒すことが出来る思いやりのある子に育って欲しい。ね、海音みお


 みお⋯⋯それはとても懐かしい呼び名。

 私が、白川くんと同い年の同級生として過ごした時の名前。

 その名前を何度も白川くんは呼んでくれた。友達としてだったけど、私はその名前を呼ばれるだけで幸せだったんだ。


 白川くんは私を抱き、これ以上ないというくらいの優しい声で、それでいてしっかりと私にこう語りかけた。


海音みお、キミは俺の大切な宝物だ。元気に大きくなって欲しい。絶対にキミを死なせやしないよ。もう二度と、大切な人をなくすのはイヤなんだ。だからいつまでも、そしてどんな時も、必ず俺が守ってみせるから⋯⋯」



【完】

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