『○○○○○○』●●●●著を読んで       笹葉更紗

『○○○○○○』●●●●著を読んで           笹葉更紗



「実はおれ、ポニーテール萌えなんだよね」


竹久が言った。


放課後の旧校舎で、新しく部を開設するという『黒魔術研究部』という怪しい部が使用する部室を用意するため、空き部屋の清掃をしていた。


竹久が手が空いているからと手伝ってくれるというので甘えていたのだけれど、思いのほか大変で、埃っぽい。


こっちも気合を入れなければと長い髪を後ろでくくろうとした時、ふいに竹久がそんなことを言い出したのだ。


「特にさ、口にゴムをくわえて両手で髪をまとめている姿が好きなんだよね」


 まさに今、自分がそんな形だったために恥ずかしくて死にそうになる。


 べつに竹久はウチのことを指して言っているわけではないだろう。ただ単に一般的な持論を述べているだけだ。たまたまうちがそういう体勢を取っているから思い出して言っているだけに過ぎない。


 いくら最近軽口をたたくようになたっ竹久とは言え、さすがにそこまで行ってくるタイプではないだろう。

 単にウチのことを、異性として意識していないから気にせずに言ってしまっただけだ。


それを証拠に彼は続けて、


「あ、口にくわえるゴムっていうのはヘアゴムのことだよ。勘違いしないでね」


 なんて言葉を平気で言ってしまうのだ。


 罵声を浴びせてやりたいが、あいにく口にゴムをくわえているのでしゃべることができない。ゴムというのは勿論ヘアゴムだ。

代わりに思い切り冷たい視線を送りつけてみる。


「そう、ポニーテール萌えなんて初めて聞いたわ」


 ヘアゴムを手に取り、髪を結わえながら返事をした。


「もともと好きではあったんだけどね。最近また特に好きになった」


「なに? もしかして走るウマ娘のしっぽでも見ながら好きになったのかしら?」


「いや、どちらかと言えば女剣士とかかな。ほら和装の女剣士とか、よくポニーテールにしているでしょ」


「あれは、ポニーテールというか、髷の亜種みたいな感じじゃないかしら。ハルヒは勘違いしてちょんまげヘアで学校に来たけれど、結局すぐ普通の髪形に戻っているわね」


「ところで笹葉さん『○○○○○○○○』というラノベはもう読んだ?」


「いえ、読んではいないけれど……確かファンタジー世界の特殊設ミステリ、みたいな感じでしょ。密室だったり、読者への挑戦状的なものもあるのよね。百合ラブコメの要素も強そうだけど」


「うん。それにね、ポニーテールの女剣士が出てくるんだよ」


「なに、そのキャラが好きって話?」


「まあ、それもある。だけど、おれが言いたい話の核心はね、笹葉さん、そのキャラのコスプレをしないかな? って話なんだけど」

「え? ごめん、よく聞こえなかったわ。というより、言いなおさなくて結構よ。たぶん何回言ってもよく聞こえないと思うから……」


「じゃあ、一回だけチャレンジ。今度のハロウィンでさ、そのキャラの仮装をしないかって瀬奈が行ってきたんだよ。瀬奈は吸血姫キャラのコスプレをしたいらしいんだけど」


「瀬奈がね。それで、竹久はどうするの? それをウチに誘うからにはあんたも何かやるつもりなんでしょうね?」


「まあ、『笹葉さんがやると言ったらおれも付き合うよ』とは言っておいた。スナイパーキャラをね」


「ふーん、そうなの」


 ――その『○○○○○○○○』というラノベを読んでいないというのは嘘だ。実はもう読んでいるのだけれど、内容が少しばかりエッチだったので読んでいないとごまかしただけだ。

 そのラノベの中では、スナイパーのキャラは女剣士のことが好きだ。

 そのことを考えると、案外そのコスプレも悪くないんじゃないと思える。竹久はどうせ、そんなところまで考えてなんかないのだろうけれど……


 普段、まともな状態でそんなコスプレをやるなんてとてもじゃないけどできない。でも、本心を言えば興味がないわけでもない。

 せっかくだからハロウィンというイベントに乗じて、羽目を外してみるのも悪くない、かもしれない

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