『遠野物語』柳田国男著 を読んで2
『遠野物語』柳田国男著を読んで 竹久優真
「わたし、普通の人間には興味がないんです。普通の出来事にも。
だから、わたしを満足させてくれるような不思議な体験を持ってきてください」
オカルト研究部の上田麻里はそう言った。
どこかで聞いたことのあるような、ただただ痛いとしか言えないそんな発言を彼女は平気でするのだ。
旧校舎の空き教室に住み着き、「黒魔術研究部」とかいうくだらない表札を自作して掲げる彼女は自分のことを竜宮坂輝夜(リュウグウザカカグラ)と名乗る。
黒髪――いや、彼女の言葉を借りるなら水に濡れたカラスの羽のような漆黒の髪で、左目に眼帯。もちろんその下には火竜の焔がごとく真紅の瞳を隠し持っている。
もちろんカラコンだ。放課後以外は両目ともにきれいな黒色の瞳で眼帯もなしにごくごく真面目に授業を受けている普通の子だ。
彼女はどうやら僕の名前が気に入ったらしい。
優真――すなわちUMA(未確認生物)らしく、どうやら僕は普通の人間ではないと判断されたらしく、この頃やたらと付きまとわれるようになった。
普通ではない僕の周りでは、いつ何時不思議なことが起きてもおかしくないのだという。
もちろんそんなはずがない。
しかしあまりにもしつこい彼女に対し、何らかの餌を与えてみたら、いったいどんな反応をするのだろうか? などと思い立った。
休みの日を利用して、県北のとある無人駅に立ち寄った。ほとんど駅を利用する客もいないような静かな場所だ。しかし、ここに駅がなければまた、多くの人が生活に司法が出てしまうというのもまた事実。おかげで駅は今もなお残り続けている。
こういう田舎に一人でふらりとやってきて、ふらふらと歩きまわりながら地元の小さな神社や廃屋をさまよい歩くのが最近の楽しみの一つでもある。
夕方になり日が暮れかかり始めたころ。僕はあらかじめ用意しておいた紙を駅のホームにある駅名のかかった看板の上に貼り付ける。
『きさらぎ駅』とだけ書いた偽の駅名に張り替え、スマホで写真を撮った。こんなもの、よく見れば簡単に偽物だとわかるのだけど、夕方の少しばかりの暗がりと、わざと落とした画質でごまかしてみた。
タイミングよくやって来た本数の少ない電車に乗り、地元の駅に帰る途中、上田さんに写真を送ってみた。
どうせ信じないだろうと思っていたのだが、彼女は意外とテンションをあげたみたいでいろいろと質問をしてくる。適当に今日撮ったばかりの山奥の稲荷の祠や廃屋の写真を送って『今ここにいる』などと言ってみると効果はてきめんだった。
もちろんその時の僕は電車の中だ。
信じるはずもないと思っていたのに意外と乗る気になっている上田さんの相手をするのは少々面倒くさくなり、充電がなくなってしまったと言って通信を遮断した。
翌日無事に学校に行った僕に対し、上田さんはずいぶん心配してくれていたそうで、正直に嘘だとは言いにくく、自分の軽はずみな行為に反省した。
それから数日後。瀬奈が僕の所へ来て言ったのだ。
「ねえ、ユウ! きさらぎ駅に連れていって!」
もちろん、そんな場所はどこにもない。話を聞けば、瀬奈は上田さんから僕が「きさらぎ駅」に行ったことを聞いたらしいのだ。そして、瀬奈もまた、同じ日にきさらぎ駅に行ったらしいのだ。
その事実に運命のようなものを感じないわけではないのだが、僕はあの日、「きさらぎ駅」と書いた紙を看板に貼り付けたまま、忘れて帰ってしまったのだ。
もちろん、悪戯とはいえそんなことをすれば犯罪なわけで、瀬奈に正直に言うこともはばかられるが、やはりいわないわけにもいかない。
瀬奈はどうやらそこでお世話になった人がいるらしくお礼をしに行きたいだけだというのだが、僕は次の休みに瀬奈を連れてその駅に行くという約束を取り付けた。
上田さんも相当に行きたがっていたそうなのだが、さすがに彼女にまでは僕の悪行をばらされたくないということと、「『きさらぎ駅』なんて絶対に行きたくない」という笹葉さんの意見に(本当はきさらぎ駅なんかではないのだけど)二人きりで行くことになった。
――しかしまあ、それはちょっと楽しみじゃないか。ほとんど二人でデートに出かけるようなものだなと、今から楽しみにしている今日この頃である。
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