『遠野物語』柳田国男著 を読んで

『遠野物語』柳田国男著を読んで              笹葉更紗



 ウチは都市伝説を信じない。


『遠野物語』などで描かれるような民話や伝承は面白いとは思うけれど、それらが事実だとは思っていない。


 いや、おそらくそこに事実はあるのだろうけれど、それらを体験した人がその現象を正確に理解できずに、自分の納得のいく形で理解しようとした結果に落ち着いた状態がいわゆるそれだと理解している。

 そしてそれらは語り継がれていく間に尾びれや背びれがついて行き、やがてとんでもない怪異として届けられてしまう。


 民俗学、と言われるそれら民間伝承は文明の進んだ現在、インターネットやSNSを通じてものすごい速さで人々に伝播していく時代となり、それらは現代社会で『都市伝説』と言われるようになった。


 2004年。インターネット上の書き込みサイトでリアルタイムに書き込みが行われたことで一躍有名となった都市伝説、きさらぎ駅。

 当然ウチはこの出来事を事実だと思ってはいない。きっとセンスのいいクリエイターがインターネットを駆使したモキュメンタリを展開していたのだと思っていたのだけれど……


 ウチは都市伝説を信じない。

 だけど、親友である宗像瀬奈の言う言葉は信じる。それが少々滑稽な出来事であっても、純真な彼女は回りくどい嘘などをついてひとの気を惹こうとなんてしない。

 それだけに、少しばかり信じにくい話でもあったのだ。



「あー、まだ電車車でだいぶ時間かかるね」

 田舎の電車はそう次々とはやってこない。一本乗り過ごすと次に来るのに30分から、時には一時間近く待たなければならないこともある。

「そうね、瀬奈がたい焼きを追加で買っている間に電車は行ってしまったわ」

「おかげでゆっくりと話をする時間が取れたよ。最近いろいろと忙しくて更紗とゆっくり話をする時間が取れなかったから」

「なんというか……瀬奈は前向きね」


「えへへ、ありがと」


 ――厭味が通じない、そんな強さを持っている。


「あ、そうだ。これ見て! きのうさ、終電に乗り遅れそうって思って急いで電車に乗ったのね、ギリ間に合ったわと思って安心したもんだからつい居眠りしちゃったのよ」


「え、終電で? それってまずくない?」


「マズいわよ! そんでさ、起きたらなんか全然知らないところ走っててさ。もしかしたら違う電車に乗ってしまったのかもしれないって思って、とりあえず次の停車駅で降りたのよ。

 さて、ここからどうやって家に帰ろうか迷ったんだけどさ、まずはここがどこだかわからないとどうしようもないじゃない? なんかすごい田舎の駅でしかも無人駅なわけよ。

 とりあえず駅名を確認しようと思ったんだけど、それも全然知らない駅なわけ。

 でもさ、この駅。なんか変だなって思ってよく見たらおかしなことに気が付いたのよ。ちょっとこれ見てくれる」


 瀬奈はスマホから一枚の画像を取り出した。深夜の暗がりの中にたたずむどこか田舎の駅舎だ。写真を見た瞬間にゾッとした。


「ねえ、気づいた? この駅のプレート、前の駅も次の駅も書いていないのよ。これってちょっと変だよね?」


 ちょっと変どころか、その写真の駅名には『きさらぎ駅』とだけ書かれている。前後の駅名のところは何もない。


「この駅さ、スマホで調べようと思ったんだけど、運悪く充電切れちゃってさ。周りに人も住んでいなさそうだし、どうしたもんかなーって、とりあえず駅の線路を歩いてみることにしたの。移動するにしても線路の上を歩くのが多分一番の近道になると思ったのよ。あ、大丈夫よ。終電も終わっているから電車にひかれるなんて心配ないし」


「電車にひかれるどころか、心配するところだらけじゃない」


「うん。でもね、うまい具合に通りかかった軽トラックがあってね、乗っていたおじいさんが心配して声を掛けてくれたの。それで事情を話すと車に乗せてくれて、どんどん山道を進んで行ったの」


「やばいやばいやばい。それ、もう絶対に助からないじゃないの」


「アハハハ、大丈夫だよ。こうして今、ここにいるわけだし。それでね、おじいさんの家で晩御飯をごちそうになって、それでまたトラックに乗せてもらって家まで送ってくれたのよ。ホント、すごい遅い時間になったっていうのに親切なおじいさんでさ、またちゃんと改めてお礼言わなくちゃって思ってたんだけど、あいにくスマホの充電も切れていたし、連絡先を聞いて紙に書いていたんだけどさ、どういうわけかその紙、失くしてしまったのよね。

 それでさ、やっぱそのままっていうわけにもいかないじゃん。だからさ、どうにかしてそのおじいさんを探せないかなって。ほら、すごい田舎の駅で人もほとんど住んでいないような街だったし、そのきさらぎ駅ってところまで行ければどうにかなると思うんだけどさ、サラサ、一緒に探してくれない?」


「探すって、きさらぎ駅を?」


「だってそれしか手掛かりないんだもん」


「ごめんなさい。さすがにそれは手伝えないわ。それに、きさらぎ駅にもう一度行きたいなんて考えちゃだめよ。ウチ、絶対行きたくないんだからね!」


「えー、サラサのけちんぼ」


「これは、ケチとかそういう話じゃないから!」






                    この話は次回に続きます

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