第7話 青空の下
やまつばき ひかるこは扉を開けて一歩踏み出した。
手を掴みあっちゃっているから、わたしも扉の向こうの光の中に出る。
わっ、まぶしい‥。体全体に降り注ぐ光があったかい。不思議な熱を感じる。
最上階にこんな扉があるなんて知らなかったし、屋外に出られるなんてもっと知らなかった。
やまつばきひかるこはどうしてこんなところに来たんだろう?
「ねぇ、太陽光の下に出ちゃったけど、危なくないかな?やけどの心配はないの?」
馴染みのない空気や光の圧力のようなものに怖くなってわたしは彼女に聞いてみた。
「紫外線やその他の宇宙光線は問題ないよ。直ちに人体に影響が出るレベルじゃないから」
「そうなの?でも、やまつばきひかるこのそのお顔って、太陽光で焦げちゃったんじゃない‥の‥?」
あ、思わず聞いてしまった。
十一にたびたび注意されてるのに‥。
『青は、思ったことを何でも直ぐにそのままに相手に伝えすぎ。口に出す前に言うべきことかもう一度考えたら?』って。
幼馴染みは本当に大事。わたしのことをいつも思ってくれる‥のに‥またうっかりを!!
心臓はカチャカチャとありえないテンポで跳ね続けてる。
「あ、この日焼けした肌、やっぱり気になっちゃうかな?」
やまつばきひかるこは彼女の右手をのぞきこむように体の近くに手を引く。
掴まれたままのわたしの手も引かれて、わたしの体も互いに触れそうなほど近づいた。
「青の手はきれいだね。白くってすべすべしている。ほかの皆もそうだね。もしかして皆親戚や、きょうだいだったりするのかな?」
「しんせき‥きょうだいって血縁があるってことだよね?そういうのは、遺伝子的な出自はみんなわからないようになってるよ。情報開示は国にしかできないんじゃないかな‥」
その言葉を聞いて、やまつばきひかるこの真っ黒な瞳がまたきらりと一瞬輝く。
きれい。
こんがりとした温かそうなほほも。
細いガラスなんじゃないかってくらいピンピンとはねたつやつやの髪の毛も。
太陽光に照らされてうっすら光っているのはなんだろう?ほほや口元‥手の指や変わった服の裾から突き出た足の表面に、透明な薄い体毛が生えているんだ。きらきら、ふわふわ。
‥え?
また。
どうしてやまつばきひかるこがきれいだと思うんだろう。
わたしよりももっと、かんぺきからはかけはなれた存在なのに。
「ねえ、上をみてごらんよ」
やまつばきひかるこの言葉に、太陽光に怯みながらもおそるおそる顔を上げてみた。
「青く清々しい空だね。青の名前と一緒だ」
高い、遠いところに青がある。
宇宙に近づくにつれて、透明になって消えてしまう青が。
やまつばきひかるこの方を見ると、彼女は笑っていた。口のはじっこが左右ににいっ、と引き伸ばされてる感じ。
「‥きれい‥」
その笑顔に思わず口に出して言っちゃった。初めて会ったばかりの人に。これはさすがに良くない‥十一に怒られちゃうな。人の身体特徴を上げない!誉めるつもりでもだめ!って。
「そうだね、やっぱり空の下が気持ちいいよ」
わたしの『きれい』って言葉は空のことだって思われたみたい。
よかった‥ほっとしたような、ちょっとがっかりしたような‥なにこの気分??
「『やまつばき』はファミリーネームなんだ。よかったら『ひかるこ』って呼んでくれる?」
やま‥ひかるこはこんがりとしたおいしそうなほっぺたをかしげてそう言った。
こっくりとうなずく。
手を引かれていつの間にかバルコニーの柵のところまで連れてこられていた。
「おなかすいちゃった!よかったら一緒にランチにしない?」
柵にもたれて地面に足を投げ出してぺたん!と座り込んだひかるこはわたしに向かってそう言った。
ランチ‥昼食の意味?昼食とは、人類が1日3食に分けて栄養補給をしていた際の、正午頃に摂る補給のこと‥だっけ?
いつか受けた授業内容のようなことが、頭のなかをぐるぐるとよぎりながら、わたしはひかるこの隣に腰を下ろした。
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