第8話 はじめてのランチタイム
ふぅん。
正直、ぼくは驚いている。
この青という子はほかのクラスメイト、先生、『街』の人達とは違う目でぼくを見る。
皆、痛ましいものを見るように、気遣う、いやはっきり言うと憐れむような目。
ずいぶんだと思うよ、正直。
区別もつかないように皆似通って、それが美しいってことなんだろうか。
‥だめだ‥やっぱりぼくって、じいちゃんにコントロールされちゃっているのかも。
手を繋いだら青が顔を真っ赤にして慌ててるのかかわいくって、ぼくはぼくの中の偏見を恥じる。
『村』からも『街』からもじいちゃんからも距離をとるっていうのは難しいみたい。
青はぼくのことをすごく見ているけど、嫌悪や哀れみを浮かべてはいない。むしろ目を輝かせているように見える。
もしかして。
ぼくのこと好きになってくれる?
友達になれるかも。
友達っていえば、一緒に食事、だよね!
このバルコニーはは日当たりも良くて気持ちいい。
青は日に当たるのを怖がっているけれど、特殊な疾患を持っていなければこのくらいのお日様は平気なはず。むしろ『街』の子は遺伝子的に強いはずだもんね。病気やウィークポイントはどんどん淘汰されているようだし。
「タラク先生に配給のキューブを貰ってるんだ。一緒に食べようよ」
ぼくはバルコニーの柵にもたれて座る。
青も、おそるおそる腰を下ろす。
セーラー服(この藍色の装束の名前ね)のスカートのポケットから、キューブの4つ入ったパッケージを取り出す。
2センチ角の正方形の物体。色は穀物っぽい。
たしか、よおーく噛んで飲み込むようにって言われたっけ‥。
口に放り込む。
‥ぱくんっ!ぼりっ、こりっ、こり、こり‥。
「うーん」
目を丸くしてこっちを見てる青には悪いけれど‥これって‥おいしいの??
うっすら甘くて、青臭い。
「あ、ちょっと生のニンジンをかじったときみたいな味!」
それにしてはあんまりみずみずしくはないけど。
よーく噛んで飲み込むと‥わ、すごい満足感。
胃のなかで膨らんだ気がする。
だから一回で4つしか食べなくてもきっと大丈夫なんだ、きっと。
「初めて食べたんだ。キューブの食べ方、間違っていないかな?」
青はぼくが話しかける度に目を大きく開く。
くせなのかなぁ?きょとん、って言葉が似合うかわいい仕草。
「ええと‥おおむね間違ってはいないと思う。咀嚼が少ないと胃腸に不具合が出るから‥30回は咀嚼しなさいって、小さい頃に教わったよ」
目が合うと、ぱっと逸らしながら、やたらそわそわと自身の髪や体のあちこちを撫でながら青が言う。
この子って話せば話すほど、最初の、物静かな彫像のような印象が崩れてくる。
「あ‥あのね‥ひかるこは他所から来たばかりだから‥お伝えするんだけどね、あの‥あんまりこういう事を初対面の人としないほうがいいと思うの」
青が、名前の反対の、もう真っ赤な顔をして言う。
今度はぼくのほうが、きょとん。としてしまう。
こういうことって?
「よっぽど仲の良い間柄か、家族くらいしか、お互いに見せ合ったりしちゃ、だめだと思うの‥」
え、
も、もしかして‥
「青、もしかしてぼくが人前で食事をしているのって‥とっても恥ずかしいことなの?」
青が、通じた!とほっとした表情で何度も頷く。
青の慌てぶりに、なんだか、ぼくのほっぺたまで熱くなってきてしまう。わわ、なんだか恥ずかしい!!
じいちゃんめ‥!!
じいちゃんのせいだ!
きっと関係ないけれど、ぼくが八つ当たりできるのは肝心なことを教えてくれずに育ててくれた祖父のせいなんだ!
恥をかいて、失態をおかして、もの慣れなくて、こんないろいろなことがおこることが、じいちゃんのコントロール下を離れたって感じがして、少しの怖さと、大きな解放感で胸がいっぱいになってきたみたい。
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