第6話 山椿光子と青

とにかく、じいちゃんに声を送ろうっと。

ぼくは、「街」の教育機関の中にある与えられた一室にいる。

他の子たちはどこにいるんだろう?「街」の子だから自分の居室が他にあってそこから通っているんだろうか?

今日は、何もかもにびっくりだ。とりわけ40人のクラスメイトたち。40人の双子(?)のように似通った、ぼくと同い年だという子どもたち。おとぎ話の森に住む妖精たちだと思った。すらりと高い背丈の透き通るような肌の、まるで植物のような穏やかな‥あ、いや。

思い出し笑いをしてしまう。

あの子、面白かったな。ひとりとりわけ背が高いのにおどおどと縮こまっていた、赤い髪のあの子。


太陽は頭の真上、ぼくはお腹がぺこぺこになって、そっとクラスルームを抜け出した。

とにかく、日の光を浴びたいなあ。この建物はどこもかしこも真っ白な壁や天井が明るく光っていて、窓が見当たらない。

とりあえず、高い方へと何階もフロアを上へ移動する。ここが最上階かな?あ‥見つけた!ベランダ?バルコニー?ひとつのドアの向こうは空の下だ。

ドアに鍵はかかっていない。タラク先生の説明のとおり、ぼくたちは囚われてはいないらしい。

でもなんとなくそおっとドアを開ける‥。

「あのっ、そっちは外‥だよ」

急に後ろから声をかけられて、どっきん!心臓が跳ねる。なんだ、やっぱりぼくもびくついてみたい。こんなにはびっくりするなんて。

振り向くと赤い髪の背の高いシルエットが見えた。

あ。同じクラスルームにいたあの子だ。

他の子と違ってすぐに見分けられたことでちょっと親近感を覚えてしまう。

「こんにちは、さっきもご挨拶したけれど、あらためて。ぼくは山椿光子です。よろしく」

2,3歩近寄ってご挨拶。身長の差があるのでちょっと上目遣いになってしまった。

じいちゃんの「妻」に教わったこと。まずはにっこりとご挨拶。それから握手。お友達を作る必勝法だ。

近くで顔を見上げると表情がよく見える。

他の子と違うところもうひとつ見っけた。頬骨や肩幅、骨が目立つ健やかな感じの体つきだ。

「こここんにちは‥わたしの名前は青です‥」

「青さんって言うのね。「青い空」の「青」?」

青は首を縦に二度振る。こくこく。

へぇ。きれいな名前だ。

目の前の青の顔がみるみる赤くなっていく。

「あれ?今ぼく声に出しちゃってた?」

こくこくこく!真っ赤になった青が3度首を縦に振る。

ふうぅーー‥っ。

しらないうちにお腹のそこから深いため息が出た。ほっとしたんだ。

なんだ、「街」の子も人間なんじゃないか。

あ、そうだ。「妻」の必勝法。

「ぼくと友達になってほしいな。握手してくれる?君の手に触れてもかまわない?」

身体の接触を「街」の子が好きじゃないかもしれない。ぼくは「外の村」でじいちゃんや彼の「妻」に抱きしめられるのが大好きだったけれど。

ぼくの言葉に青はまたぴょん、と小さく跳ねた。

さっき目があったときみたいに。

そうして、そおっと差し出される白い手と手首。

ぼくは嬉しくてその手を両手でぎゅっと握りぶんぶんと振り回す。

「ひゃあぁっ」

びっくりした青はまるで目を回しそうな瞳だ。

「よろしくお願いします、やまつばき ひかるこ」

か細いけれど低くかすれた声で、それでも青はそう答えてくれる。その瞳は限界までぱちくりと見開かれている。

青の様子はびっくりして毛を逆立てた子猫のようだった。その目に映る、興味、興奮、恐怖‥?

「ねぇ、一緒にこのドアの外で、空を見ない?」

ぼくはそのまま青の手を引いてドアの外に踏み出した。





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