第3話 十一と青

青が、転校生のことばっかり見てる。

まあ、みんな見てるけど。わたしも、まあ見るけど。

青は世間知らずだから聞いたこともないかもしれないな。あれは絶対自然主義者だ。

植物や動物の生体を直接加工して、摂取しているって噂だ。遺伝子のランダムな選択を是正せず野放しにしている。身体に対する暴虐ではないの?

病気や脆弱な特徴もそのままにしているなんて。


わたしは、キューブを口にするのが幼い頃から苦手だった。口内や顎の発達のためにも最低限の経口摂取は必要だ。食事の度に苦痛で涙を流すわたしを見かねて保護者は早めに調整液に切り替えてくれた。そうしないと生育に支障をきたすレベルだったのだ。

それなのに。

無邪気に、いつから調整液だったー?なんて聞いてくる青。

昔からそうだ。おどおどと弱々しく見えて、自分の考えや状況外のことなんて想像もしていない。

要するに無神経ってこと。

わたしの髪や、他の子よりさらに細いあごや手首を、平気でうらやましいと口に出したりする。

青は、いつ気が付くだろうか。

わたしの瞳が、灰色から徐々に青みがかっていくことを。

そうして、ある日、羨ましそうに言ってくれるだろうか。

十一の青い瞳がきれいね、うらやましいな‥って。


青い空。青い海。青色のストロー。他愛なくそこらにある「青」が嫌いだ。

口にするだけで、あの子の名前を呼んでいる気になる。

あの子の手首の骨が出っ張っているところ、首の長い横顔を思い出してしまう。

小さい頃はいつでも好きな時に触れた赤いもしゃもしゃした髪の毛も。


調整液を飲む度に、気分が落ち着いていくのがわかる。

あの髪を、手首の骨を、触りたいって気持ちが消えていく。

それは幼い頃から、わたしを暖めてくれる小さな炎だったのに。


だからきっとこの気持ちは、わたしには不必要なものだったのだろう。

青い春。それはどんなものだったのだろう、言葉しか残っていない、不必要でわたしたちが失くしてしまったもの。


ふぅ。

ため息をつくと、胸の奥の小さな炎が揺れるのを感じる。

吹き消してしまおうか、それとも燃え上がらせようか、まだ決めかねている。

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