第2話 青と十一

「ずっと見てるのに、話しかけに行かないの?」

美容成分多めの調整液を細いストローで一口飲んで、幼馴染みの十一じゅういちが言ってくる。

「やめてよ‥別にそんなに見てないし」

嘘だ。やまつばきひかるこを目で追っていない子はこのクラスには1人もいない。

でも、わたしも普段はやまつばきひかるこほどじゃなくても周りから見られている。

さっきやまつばきひかるこがわたしに目を止めた理由も本当はわかってるんだ。

向かいに座って気だるげに調整液を口にしている十一を見る。金というより白金に近い髪が水が落ちるみたいに肩や背中にさらさらとかかって揺れている。光を柔らかく受け止めて時おりきらめいている。

対して、わたしの肩に乗っかっている赤茶けたパサパサと波打っている毛束が目のはじに映ってがっかりする。

皆の髪の毛とわたしのはかなり違う。

やまつばきひかるこは何もかもが違うけど、わたしのようにちょっとだけ違う、っていうのは地味に目立つのだ。

「ねえ、十一は調整液に変えるの、本当に15歳まで待ってた?」

わたしはまだ14歳なので調整液ではなく基本食のキューブを持ってきている。クラスでまだキューブの子は他に何人いるのだろうか。一応法律では15歳からじゃないと調整液にしてはダメってなってるけど、この年頃だと皆隠れてやってたりする。保護者がむしろ勧めていることもあるくらいだ。

調整液を始めるまでは、遺伝的特徴が外見に出やすい。わたしの髪のように先祖返り的にしつこく変わった形で出ることもある。

わたしの保護者はわたしの髪の毛を気遣わしそうに見ながらも、15歳まではキューブにしなさい、っていう厳しめな教育方針だ。ただでさえ誕生日が遅くて出遅れているのに皆との差がますますついているようで焦る。わたしの保護者たちは記念日に「レストラン」に行くくらい変わった人たちだ。わたしの名前に色を示す「青」って付けたり、わたしはいろいろと悪目立ちしてしまって日々少し困っている。

「まぁた髪の事でいじけてるの?わたしの髪は子どもの頃からこんなものだったよ。まあ、15歳までちゃんと待ってる真面目ちゃんは青くらいかもしれないけどね」

「やっぱり‥皆早く自分で性質志向を選択できていいなぁ。理想に近づくためには早ければ早いほど効果がでるっていうし。成長しきっちゃうと変化できなくなるんだよね?」

赤いふわふわと波打つ髪。

意味を持たされた名前。

引っ込み思案な性格。

我ながら一世代前の人みたい。


やまつばきひかるこは20世紀くらいの昔の人に見えるけど‥。


あれ、いない。

背が低いから皆に紛れて見えないのかな、と思ったけれどいつの間にか教室からいなくなってる。

他にも何人かそっと姿を消している。

そっか、やまつばきひかるこも補給の時間なのかも。

皆の前でキューブをかじるのはあまりに子どもっぽくて恥ずかしいから、わたしも席を外してこっそりと補給している。

「ちょっと散歩してこようかな」

十一は、わたしが不自然に席を外すのを自然に流してくれる。

ぶらぶらと今日はどこで休憩しようかな。

もしかしたら、やまつばきひかるこにばったり会っちゃうかも。ちょっと話をしてみたいな。

どこから来たの?とか。


そういえば、自己紹介で言っていた「すきな食べ物」ってどういう意味なんだろう。

トマトが好きって、栄養素とか?色や形が好きなのかな?

今度トマト味のキューブを持ってきて、それをきっかけに話しかけてみようかな。

キューブの味がどうとか選んだりするの、赤ちゃんみたいで相当恥ずかしいけど‥。


時間は補給にぴったりなはずなのに、なんだか今日はそわそわして、食事衝動があまり沸いてこないのが不思議だった。






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