きみのすきな食べ物が知りたい
天王野苺
第1話 青と山椿光子
「好きな食べ物は、トマトです。」
彼女の自己紹介の締めくくりの一言は、いつもひんやりと静かな教室にさざ波のような動揺を広げた。いや、もっと前、彼女が先生についてこの教室に入ってきた瞬間から、わたしは目が離せなくっていた。
「ねえ、青」
後ろの席からわたしの名を呼ぶ声。
「聞いた?好きな食べ物‥だって‥」
他の席からも次々と声が聞こえてくる。
「なに、あの見た目。わたしたちと全然ちがう」
「すごい田舎から引っ越して来たって」
「まさか‥自然の町からって本当?」
「名前長くない?」
やまつばき ひかるこ
そう聞こえた。どんな字を書くのだろう。
わたしと身長の変わらないタラク先生の肩くらいまでの背丈。小さい。160センチないのかな。
なんだろう。素焼きのカップのような色合いの頬。まさか太陽光で本当にこんがり焼けちゃったとか?肩までの髪は真っ黒でひとつに束ねた先が突き刺さりそうにピンピンと立ってる。針金みたい。さわってみたい。
対して向かい合うわたしたちは皆同じような見た目だ。身長は170から180センチくらい。ほっそりとした体は透けるように白い。栗色から金色の淡く細くさらさらとした髪を腰までただまっすぐに下ろしている。
1人対40人‥なのになんだか情報量で圧倒的に負けてるような気がする。
彼女、やまつばき ひかるこはオニキスのような深い色の瞳でわたしたちをゆっくり見回している‥。
え、なんで。
わたしのところで彼女の視点が止まる。
それにしても本当に真っ黒な瞳。すいこまれそう‥。
彼女が口を真横に開ける勢いでわたしにニッ!と笑いかけた。
ぐるん!と、喉の奥?その下?胸の中がひっくり返ったみたいな感じがする。
びっくりしているのにその不思議な姿に目をそらせなくなっていた。
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