それはまるで夢のような③
ケイジは今にも消え入りそうな声にショックを受けながらも、返事が返ったことに安堵のため息を漏らし、もう一刻の猶予もないことを覚悟しながら
「待ってろよ、サヤ、今、いい夢を見せてやるからな」
そう言って、胸元から取り出したマッチに、火を灯した。
様々な色の混じり合った極光のような灯火が、アパートメントを優しく照らし出す。
気がついた時には、ケイジは煌びやかな大豪邸にいた。
中世ヨーロッパの城を思わせるような白い大理石の壁に赤い絨毯。
背後には
あたりには品の良い音楽が流れ、どこからともなく良い匂いが漂ってくる。
気がつくとすぐ側には真っ白なベッドがあって、
ケイジはそこに寝そべりながら
ふかふかの感触を楽し み ……
――脇腹の痛みに目が醒めた。
目の前には苦しげに息をするサヤの顔。
しかし、その表情には、驚きと喜びの色が混ざっていた。
何がどうなったのか分からなかった。しかし、
「お、兄ちゃん、いま、、の……」
「見えたか!?」
必死でそう叫ぶと、サヤは嬉しそうな顔をして何度も頷き
「すごく綺麗な、おとぎ話に出てきた、お城みたいな場所が見えたよ」
笑顔を見せた。
「サヤ、今、のが夢だぞ」
その笑顔に勇気づけられたケイジは、すぐにもう一本のマッチをポケットから取り出し、
「待ってろ、もう,一度」
そう言ってケイジは『マッチ』を擦る。
すると再び、様々な色の混じり合った極光のような灯火が、アパートメントを優しく照らした。
気がついた時には、
ケイジの目の前には、暖かい暖炉が赤々と燃える、豪勢な食卓があった。
食卓に並ぶ料理はどれひとつをとっても見たこともないような贅沢な品ばかり。
ぴかぴかに光る食器と綺麗に織り込まれたテーブルクロス。
どうやって使うんだか分からないナイフとフォーク。
ケイジは恐る恐る手近なパンに手を着けてかじってみる。
肉や魚には恐れ多くてとても手が出せなかったのだが、それでも、口の中で広がる小麦の芳醇な香りにケイジは惚けたようになり、次の皿に手を伸ばそうとして……、
――痛みに目が醒めた。
眠るには体力が必要、というのをケイジはどこかで聞いたことがあったが、一本のマッチでは衰弱した今の自分とサヤを眠らせるだけの効力はないのかもしれなかった。
残りは五本。
失敗はできない。
けれど、
意を決したケイジは、内ポケットからありったけのマッチを出し、それに一斉に火を点けた。
マッチがあかあかと燃え上がる。
オレンジ色の炎は、これまでにない程強い光を放ち、ケイジは意識が遠のいていくような感覚を鮮明に感じた。
無重力の中を歩いているような、ふわふわとした感覚。
それは、ずっと忘れていたどこか懐かしい感覚だった。
そうして映し出されたのは、
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
次回、『それはまるで夢のような』最終話になります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます