猫は情報である。

物部がたり

猫は情報である。

 徒歩から馬に、馬から馬車に、馬車から蒸気機関に、蒸気機関から飛行機にと、技術の発展と共に移動技術は進歩し、移動技術の進歩と共に技術は進歩した。

 大きな地球は、技術の進歩とともに小さくなった。

 けれど、科学者の探求心は留まるところ知らず、移動手段の最終目標は瞬間移動テレポートであった。

 科学者たちはあるタヌキ型ロボットが出す、どこにでも瞬間移動できるドアの開発を夢に見た。


 多くの科学者の見解では、量子力学の量子テレポーテーションの技術を応用すれば、理論上テレポートは可能と言われた。

 だが、超ミクロの量子単体でなら理論上可能でも、高質量物体のテレポートは限りなく不可能に思われた。

 様々な技術が急激な進展を遂げる中、テレポート開発だけは停滞していた。

 多くの科学者はテレポート研究に生涯を費やし、科学者人生を棒に振ってしまった。

 

 次第にテレポートの研究はパンドラの箱となり封印される。

 数世紀の時が過ぎ、封印を破った人物が現れる。

 テレポート研究界のアンドリュー・ワイルズと評されるジェントルが現れたことで、テレポート技術の証明、確立、実用化されることになった。

 ジェントルは幼少のころから神童と呼ばれ、ひょんなことから知ったテレポートにロマンを感じ「この技術を開発するのは僕だ」という使命感に憑りつかれた。


 けれど、成長と共に周囲から「やめとけ……科学者人生を棒に振ることになるぞ……」と反対され、ジェントルは未練を残しながらも、テレポートとは関係ない学科を専攻することになった。

 そして数十年の月日が流れたが、ジェントルはテレポート研究を諦めることができなかった。

 とうとうジェントルは今まで築き上げた科学者としてのキャリアを捨てる覚悟で、テレポート研究に取り組むことにした。


 それからさらに数十年の月日が流れ、年老いたジェントルは不可能に思われたテレポート技術を完成させた。

 ジェントルが昔取り組んでいた、ブレイン・マシン・インタフェースの研究がテレポート研究と奇跡的に結びついたのだ。

 ジェントルは猫の脳をブレイン・マシンへの改造に成功していた。

 そこで、ジェントルは人間の脳をブレイン・マシンに改造するとどうなるか考えたのだ。

 

 ジェントル自身が実験体となり、人間の脳をデータに変換する狂気を実行に移し、見事に意識をとどめた状態で成功を収めたのだった。

 物質をいかにテレポートさせるかという問題が、テレポート技術実用化までの障壁になっていたが、ジェントルの「物質のデータ化」という発想の転換により、遠く離れた地点に置かれたロボットにインターネット経由での瞬間移動が可能になった。 

 ジェントルの実験成功から半世紀もしないうちに、ジェントルが発明したテレポート理論により、世界人口の八割が電子脳になり、人々は物質世界を離れ、好きなとき、一瞬で好きな場所に移動できる、精神世界に移行している――。

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