第46話 幽剣=ホロウ(本名だけどいいみたい)

 ソラはカメラドローンを手で煽って幽剣の方へと向けた。

 腕を組みクールの佇む姿はそれだけで華があった。



“えっ!?”


“ま”


“Σ(゜Д゜)”


“この間の女の子だ!”


“立ち姿綺麗……”


“あれ? どっかで見たことないか?”



「凄いコメントの数ね」


 スマホを見ながら幽剣は驚いていた。

 驚くと言っても声を張り上げるではなく、普通に目を細めて眉根を寄せていた。

 これほどまでに沸き上がるとは思っていなかったみたいで、幽剣は(物好きなこと)と心の中で思っていた。


「あー、こほん。えー、私はホロウよ。多分知っている人もいると思うけど詳しくは説明しないわ」


 完全に視聴者任せの態度だった。

 幽剣らしいと言えばらしいのだが、ソラはその言い方に反感を買わないかビクビクしていた。

 けれど実際は全くの逆だった。ホロウが自分の芸名(本名)を口走ったことで、視聴者達は盛り上がった。



“うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ”


“マジかよ……”


“えっ、ホロウさん!?”


“あの売れっ子モデルの? 現役高校生の?”


“見間違い……じゃない。本物だと!?”



 たくさんのコメントで盛り上がった。

 まさかここまで盛り上がるとは思っていなかったようで、本気でホロウはドン引きしていた。


「はぁー。うるさいわね」

「ほ、ホロウ!?」

「そうやって囃し立てられるのは好きじゃないの。ということで、私は今は探索者のホロウだから……行くわよ」


 ホロウは言いたいことだけを言い放つと、他の全てをポイしてしまった。

 完全にヤバいと思いソラは慌てふためくものの、何故かスマホのコメントは明るかった。

 クールなキャラを最大限武器にして使ったからだ。


「凄いホロウ。あんなにズバズバ言うのに、“クール”の一言でねじ伏せちゃった」


 ソラは到底真似できないと自覚した。

 完全にホロウの独壇場になってしまう中、先へと言ってしまうホロウの姿を追って空も背中を追いかけた。


「ま、待ってよ!」


 ソラは急いでホロウの元まで駆け寄る。

 するとホロウが「なに?」とそっけない態度を取った。

 何時ものことだと思い少しビビってしまったが、ソラも自分の言いたいことをホロウに言った。


「ホロウ、さっき……」

「分かっているわよ。でもね、私は私の好きなようにさせて貰うから。私のことを仮初で見ている人にまで理解されたくないわ」

「そうじゃなくて……さっき本名で言ってだけど大丈夫?」

「……そっちなの?」

「そっちだけど、他に何かあるの?」


 ソラは完全に的外れのことを聞いていた。

 ホロウは驚いてしまい一瞬思考の全てがフリーズすると、頭を抱えて「はぁー」と唸った。


「何でそんな顔するの? もしかして僕、何かしちゃった?」

「何もしてないわよ。ただその無関心さに驚いただけ」

「無関心? 名前は関心持つと思うけど……容姿とか性格とか」

「そう言う当たり前のことを言っているんじゃないわよ。私が聞いているのは……まあいいわ」


 面倒に思われてしまい、放り出されてしまった。

 完全に話が途切れてしまったけれど、如何やら本人は本名で貫き通すようだ。


「それよりホロウ。何だか逆効果みたいだよ?」

「逆効果? うわぁ……」


 ホロウはスマホを見た。たくさんのコメントが来ているのだが、かなり高評価な様子で、ホロウのキャラも相まって、その投稿数はとんでもないことになった。

 大量のプロコメントの嵐にホロウは唇を曲げたが、それ以上言葉を交わすのを止めた。


「まあいいわ。どうせ私の戦い方を見たら……あっ」

「スライムが居るよ」


 目の前に現れたのはお馴染みの雑魚モンスタースライム。

 流石に何もしてこないから戦わないよねと淡い期待を抱いたソラだったが、何故かホロウは剣を抜いていた。


「えっ、ちょっと待ってよ。倒すの?」

「最悪ね。もしも私に敵意があるのなら倒す……攻撃して来たわね」


 スライムはホロウに体当たりをした。

 プニョっと柔らかい感触が肌を通し、ダメージなどは一切なく逆に気持ちが良かった。

 それなら戦う必要は何処にもない。安心したソラだったけど、安堵する前にホロウは剣を振り下ろした。


「悪いわね」

「えっ!? ちょっと待ってよ!」


 ホロウはスライムを倒してしまった。

 「プギュ」とやられた時の声が断末魔として残る中、地面の上に魔石が転がってホロウは容易に回収した。


「とりあえず一つね」

「……ほ、ホロウ。何で倒しちゃったの?」


 ソラは怯えた口調でホロウに尋ねた。流石にいきなり過ぎて反応が間に合わなかった。

 けれどホロウは首を捻って「何言ってるのよ」と呟くと、剣を鞘に収めた。


「私達はダンジョンにモンスターを狩りに来たのよ? 少しくらいは成果がないとつまらないわよね」

「そ、そうだけど……流石にスライムは可哀そうだよ」

「そうかも知れないけど、スライムを甘く見ているとそのうち痛い目を見るわよ」


 何だか意味深なことを言われてしまった。

 ソラは「肝に銘じます」と肩をブルブルさせると、ホロウと一緒に先に向かうことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る